昼休み、教室内はある噂話で持ちきりだった。

「ねぇねぇ、ちょっと耳貸して!いいネタあるんだ〜♪」
「なになに?」
「しーっ!大きな声じゃ言えないの!あのねぇ…」

あの子からその子へ、内緒話が伝わっていく。
いつの間にか、うちのところにも。

「ねぇラムは聞いた?」
「何をだっちゃ?」
そこかしこで内緒話をするクラスメイトの姿は見かけるけれど、
話の中身は全然知らない。
「ふふっ、それがさぁ…」
「ふんふん…。えぇっ?!それ本当け?!」
「ほんとほんと!信じられないわよね〜!」
くすくすと顔を見合わせて笑う。

端から見れば腹立たしいものでも、やってる本人達は笑いが止まらない。
自分も誰かに言いたくてうずうずしてくる。

きょろきょろと教室を見回すと、ちょうど左頬を真っ赤に腫らしたダーリンが
教室へ入ってきた。
「お〜いて…。」
おおかたサクラにでもひっぱたかれたのだろう、その痛々しい跡を掌でなでながら
自分の席に座った。
目標発見!
うちは文字通り一直線にダーリンのもとへ飛んでいった。

「ダーリン、ダーリンっ!」
「うわっ、びっくりした!何だよ、やぶからぼうに…」
勢い込んで飛びついたうちに、ダーリンが少しむっとして振り向いた。
でもうちは、これからダーリンに伝える話にダーリンがどんな反応をするかと思うと、
それだけでもうわくわくしてきて、ダーリンの機嫌なんてまるでお構いなし。

「ダーリン、聞いて!あのね、あのね…」
っとっと、危ない、危ない。
これは内緒の話だった。
慌てて自分の口を両手で塞いだ。
「何だよ?」
ダーリンは怪訝そうにうちを見ている。
うちは声をひそめて言った。
「ダーリン、ちょっと耳貸して!うち、すっごいこと聞いたっちゃ!」
小声で興奮してしゃべっているので不自然な声色になる。
浮かれるうちの様子にダーリンは眉をひそめた。
「とにかくトップニュースなんだっちゃ!」
あぁ早く言いたい。
「いーっててて…、おいっ!」
うちはダーリンの右耳をぐいーっと引っ張って、ダーリンの身体ごと自分の方に寄せた。
唇がくっつきそうな程にダーリンの耳元にぴたっと寄って、
いよいようちは例の内緒話をダーリンに。

「あのね…」
「っ?!」
がばっと身体を離して、ダーリンが跳び退いた。
「っちゃ?!何?ダーリン、うちまだ何も言ってないっちゃよ。」
そりゃあこの話を聞けば驚くのも無理はない。
けど、まだ聞いてないでしょう?
そう言おうとしてダーリンを見ると。

右手で右耳を押さえて、顔が赤らんでいて。
何か言おうとしているけど言葉にならないようで。

「どうしたっちゃ、ダーリン。」
早く教えたいのに。
再び耳元に近寄ろうとすると、
「ち、ちょっと待て…っ」
うちを寄り付かせないように両手で押し返す。
「そこから言えよ。」
「え?」
「別に耳元じゃなくても普通に小さい声で言えばいいじゃねぇか、な?」
「それじゃあ他の子に聞こえてしまうっちゃ。」
いや、もうクラスの八割方知ってる内緒話だけど。
「これは内緒の話なんだっちゃ。」
「だけど…っ」
言い返そうとしてまたダーリンは言葉に詰まった。
それと共にまた頬が紅潮する。
もう、何だっていうっちゃ?!
「とにかく聞いて損はないっちゃ!あのね…」
もう一度強引にダーリンの側にいって、耳元に唇を寄せた。
途端。

「や…っ!」

肩をびくっと震わせると、言葉にならない声を僅かに上げてダーリンが顔を背けた。
また耳を押さえて今度は俯いてしまう。
下を向いた表情は見えないが、頬が紅潮しているのは分かった。
「ダー…リン??」
下を向いたままのダーリンからの返事は一言。
「耳元でしゃべるなっ!」

えっと…、あれ?
もしかしてダーリンってー…。

「ダーリンって、耳…」
言いかけたうちの言葉を遮って、
「う、うるさいっ!別に何でもないからなっ!」
そう怒鳴ってうちの前から慌てて逃げ出した。

その背中を呆然と見送るうちの脳裏には、
さっきのダーリンの顔と声が焼きついて離れない。

そっか、そうなんだ…。

口元がにんまりと緩む。

ふ〜ん、耳が、ねぇ…。

イイこと知っちゃった。
さっきまで言いたくてうずうずしていた噂話はもう忘れてしまった。
それよりもたった今仕入れたネタの方がもっと重要。トップシークレット。

誰にも教えない。
教えたくない。

内緒の話v



(終)

ははは(笑)。よくあるネタです。
でも本当にそうだったら私は萌えますvv
あ、余談ですが、話の中でずっと言ってる噂話の中身については、ご自由に想像して下さい。


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