『ハッピーバレンタイン』(後編)




俺からの突然のキスに驚いて始めは強張っていたラムの身体も、
すぐに力が抜けて腕を伸ばすと俺の背中に回してきた。
密着するとまた甘い匂いが漂ってくる。
それを求めるかのように、俺は口付けを深くしていった。

一息つこうとして薄く開けたラムの口内に自分の舌を滑りこませ、ラムのそれと絡める。
何かの生き物のようなぬるりとした生暖かい感触にぞくりとする。
久しぶりの深いキスに興奮して、俺は没頭した。
「んー…ダーリン、ちょっ…待っ、てっ…」
胸に触れようとした俺の手をラムがさえぎった。
「…んだよ、今更。」
「だ、だって下にはお母様もいるっちゃよ。うち恥ずかしいっちゃ。」
そう言うラムの頬は赤味が増し、やや息が上がって乱れている。
お前だって感じてるじゃないか。
「お前がでかい声出さなきゃいいだろ。」
そう言ってキスを続けようとしたら、
「な…っ、何てこと言うっちゃ、ダーリンったら!」
ボッと顔を真っ赤にしてラムが反論しだした。
げっ、やばい。せっかくイイところなのに。
あぁもう面倒くさい。
「…んじゃあ場所替えればいいんだ?」
俺はあくまで平静を装ってラムに聞いた。
「え!?あ、えっと…」
ラムは返答につまってしまった。
…おもろい。
「どこなら良いんだ?前みたいにお前のUFOか?」
「き、今日はテンちゃんが留守番してるからダメだっちゃ!」
「じゃあ外に出てどこか安い所に入ろうぜ、な?」
「安い所…って…」
「そんなら良いだろ。」
「え、えぇ!?」
俺はラムの手をぐいっと引っ張って立ち上がらせると、
壁に掛けてあった上着をひっつかんで肩にかけて、部屋を出た。
「ダ、ダーリン、ホントに今から行くっちゃ!?」
「おう♪」
自分でも馬鹿みたいにはしゃいでいるのが分かる。
ラムの手を引きながら部屋のドアを開けようとして、「あ。」と1つの忘れ物に気づいた。
俺はラムの背中を押して部屋から追い出してから、それを拾ってポケットにもぐり込ませた。


下に下りると台所から晩飯のいい匂いがしてきた。
廊下を通る俺たちの足音に母さんが気づいて
「あたる〜?ちょっとあなた達どこへ行くの?」
と、のれんの間から顔を覗かせた。
「あ、お母様、その、ちょっと…。」
ラムが下手な愛想笑いを浮かべてそそくさと玄関を出る。
さすがにどこに何しに行くかなど言えない。
俺はラムが玄関を出たのを見届けてから、母さんに
「俺たち晩飯いらない。遅くなるから。」
と言っておいた。



俺はまたラムの手を引っ張って街の方へ向かった。
この間放課後ガールハントしてるときに偶然見つけた所がある。
学校の奴らもあの辺を歩いているのは見かけたことないし、あそこがいい。
俺は目的地に向かって一直線に突き進んでいく。
ラムは俺に引っ張られるままに小走りについて来た。
そこはあまり派手な外装ではなくて、ぱっと見ラブホテルとは思えない。
でもちゃんと時間と料金の書かれた看板が出ていてそのテの場所であることは間違いない。
中に入ると俺は適当に部屋の鍵をもらってずかずかと進んでいった。


「ダ、ダーリン!うち、シャワー浴びたいっちゃ!」
キスしようとしたらラムがそう言って俺の身体を押しのけた。
「だめ。」
「え!?な、何でだっちゃ!」
やんわり抵抗するラムの手を掴んで動きを止め、俺はぎゅっと抱きしめた。
「バレンタインデーだから。」
「は??」
「まだチョコの匂いがする。」
さらさらな碧色の髪に顔をうずめ、鼻をつける。
くんくんと匂いをかぐようにすると、さきから驚いてばかりだったラムから
「キャッキャ」と笑い声が聞こえてきた。
「くすぐったい…ダーリン、犬みたい。」
まだくすくすと笑い続けている。
「誰が犬じゃ。」
俺は格好だけむっとした様子を見せて、髪から耳の方に移動すると、
べろんとラムの耳を舐めた。
「ゃんっ」
ラムの肩が大きく跳ねて、鼻にかかったような甘い声が上がった。
「お前の声の方が犬みたいじゃ。」
「やぁだ…ん…ダーリ、ン…」
ラムの身体から力が徐々に抜けていき、少しずつ白いシーツに沈んでいく。
その上から身体を重ね合わせると、柔らかくて滑らかな肌が自分の素肌に触れる。
もっと触れたくなって更に密着するとラムの体温が直に伝わってくるから、
宇宙人でも何でもない、ただ1人の女なんだと安心する。
顔を上げてラムの顔を見ようとすると、恥ずかしいらしく、逃げるように顔を背けてしまう。
いつもするその仕草がやっぱり可愛くてつい意地悪をしたくなる。


俺はベッドから降りて、ハンガーに掛けた上着のポケットから小さな箱を取り出した。
「ダーリン?」
ふいに俺がいなくなったのでラムが不安げに問いかけてきた。
返事をせず、俺はベッドの上に座って箱の中からチョコレートを取り出す。
「それ、うちのチョコ…どうするっちゃ?」
「さっきはほとんど食べなかったからな。食べてやるよ。」
「え…今なのけ?」
「このままでも食えんことはないが、」
俺はハート型のチョコレートを歯で噛んでパキッと半分に割った。
きょとんとしているラムの方を振り返り、再びその身体に覆い被さると
そのカケラを口移しでラムの口の中に押し込んだ。
「んん!?、んー…っ…」
目を白黒させて驚くラムをよそに、俺はラムの口内にあるチョコレートのカケラを
自分の舌で転がし始めた。
熱を持った舌に突かれてどろりと溶け出したチョコレートをラムの舌に押し付けると、
ラムもおずおずとそれに答え、どろどろになったものを舐め取る。
チョコレートだったモノを絡ませたままラムの咥内を侵すと、
唾液より質量のあるそれはラムの口の中に収まりきらなくて
赤味を帯びた唇の端からどろりと垂れてきた。
俺は唇を離してラムの顔を見た。
もう潤んでしまった瞳がぼんやりと俺の顔を見返す。
上気した頬と熱を帯びた息遣いがまるで誘っているかのようだ。
「…ダーリン…」
俺を呼んでゆっくりと動く唇の端からとろりとろりと垂れ落ちるチョコレート。
俺はそれをきれいに全部舐めて取ってやった。


そのままラムの首筋へ、胸元へと移動した。
つんと固く上を向いた胸の頂をひと舐めしてから口に含んで転がすと、
「ん…」
と、ほんの少し声を漏らしてラムが顔を背ける。
右手の甲を唇に押し当てて自分の口を塞ごうとするから
「声出せよ。」
と、その手をラムの口から外そうとした。なのに、
「や…、」
と、また小さな声を漏らしてそっぽを向くから、
俺は目の前にあるラムの耳元に囁いた。
「何で?」
普段は人前で平気でべたべたするくせに、こういう時には妙に恥ずかしがる。
ヘンな奴だ。
「ラム?」
もう一度耳元で呼びかけると、
「や…、恥かし…から…」
それだけ言って俺に掴まれたままの右手を顔の前に持っていき、真っ赤になった顔を覆い隠してしまう。
でも顔と同じくらい真っ赤に染まった耳までは隠しきれない。
俺は構わずにラムの耳を舌先でくすぐって、耳朶をやわらかく噛んだ。
「や、ん…っ」
先よりも大きめの声が上がった
ラムの右手から手を離して、柔らかく豊かな胸を揉みしだく。
ゆっくり捏ねまわすように揉むと、ラムの身体が小刻みに震えだした。
「…っは、ぁ…ん…」
顔は相変わらず見せてくれないまま。
親指の腹で胸の突起を押し潰すように刺激すると、ラムの肩がびくっと大きく揺れた。
初めてでもないのに、ラムの身体は敏感に反応する。
ラムの肌に吸い付いたかのように、俺の手はラムの身体から離れようとしない。
俺はそのまま滑るように手を下の方に移動させた。


碧色の茂みをかき分けてラムの身体の中心へと手を伸ばした。
でも両の太腿がぴったりとくっついて俺の侵入を拒んでいる。
「ラム。」
俺はまたラムの耳元で名前を呼んだ。
「なぁ…、」
顔を覆ったままのラムの手を優しく取り、顔を正面に向けさせる。
「あ…」
ラムと目が合う。
真っ赤に汗ばんだラムの顔はとても可愛くていとおしい。
震えて熱い吐息を漏らしているその唇に、俺は吸い寄せられるように口付けた。
「んん…ふ…ぅ…」
角度を変えながら長い長いキスをする。
そうするとラムはいつも、身体中の力が抜けてしまうのだ。
「はぁ…んっ…ん…」
時折息を吐いてはまたキスをし続ける。
俺にやんわりと押さえ付けられていたラムの手がぴくぴくと動き、やがて俺の指と自分の指とを絡めてくる。
それからその指までも解き、ラムのしなやかな両手が俺の背にそっと回された。
俺はそれを合図に、口付けは続けたまま、再びラムの太腿の付根に手を這わせた。


ラムの両脚の力が抜け、今度は俺の手の侵入を許した。
中指がラムの秘所に辿り着く。
そこはもうしっとりと濡れていた。
口付けを止めて、ラムの顔を覗き込むようにして見つめた。
左手をラムの頬に添えて、さっきみたいに顔を背けることを許さない。
「チョコレート、まだ半分あるんだ。」
ラムには滅多に向けない笑顔で、言った。
俺の言葉を突拍子なく感じたらしく、ラムは黙って俺の顔を見返している。
俺は身体を起こし、ベッドの横にある小さなテーブルの上から、
置きっぱなしにしていたチョコレートを手に取った。
「ダー…リン…?」
不安そうに俺を呼ぶラムの声に、俺は軽くキスをして返した。
それから身体をラムの下半身へと移動させた。
ラムの両膝の裏に手を入れて足を開かせる。
「きゃっ、ダ、ダーリン…っ!」
突然自分の身体の最奥の部分を晒され、ラムが驚きの声を上げた。
「もう随分濡れてるな。」
自分の愛撫に敏感に反応していた証を見て、俺はちょっと嬉しかった。
「…そんなに見ないでほしいっちゃ…。」
消え入りそうな声でラムが訴える。
恥かしさからかラムの足はぷるぷると震えており、閉じたいのを我慢しているようだった。
人差し指でラムの秘所を弄る。
するとそこはクチクチと湿った音を立てて、俺の指を飲み込もうとする。
飲み込まれまいと、もう1本、中指を増やして今度は2本の指で弄りまわす。
「あ、あぁ…っ」
もう押さえが利かないらしく、ラムが艶っぽい声を紡ぎ出した。
そのイヤラシイ声に、胸の鼓動が高鳴る。
どんどん蜜が溢れて出てきた。
「ラム。」
「あ、あ…ダーリ、ン…」
一応まだ俺の声は耳に届くようで、ラムの返事が喘ぐ声と共に返ってきた。
「お前のチョコ、全部食ってやるよ。」
俺は手に持っていたチョコレートを、熱く濡れたそこに押し当てた。
「ひぁっ!」
ラムがヘンな声を上げた。
俺はそのままラムのそこにチョコレートをぬるぬると擦りつけた。
「あ!あぁっ、や、やだっ!ダーリンっっ!」
ラムが上半身を起こして俺の手を止めようとする。
それには構わず、俺はラムの蜜と混じって溶けたチョコレートを舌ですくった。
「ひぁあっ、あぁんっ!」
ラムの一番熱いトコロでどろどろと溶けてゆくチョコレート。
それがゆっくりとラムの秘部を侵略する。
「い、やぁ…あ…ん、んん…っ」
俺の舌とチョコレートとの両方の刺激を受けて、ラムの身体は再び白いシーツに沈む。
「あぁ、…あん…んッ…」
ラムの全身から汗が噴き出し、シーツを鷲掴みにして身悶えた。
両足の指までもが必死にシーツを掴もうと爪を立てる。
「あぁん、…ゃあ、は…ぁう、ん…」
もう声を押し殺すことも顔を隠すこともしない。
ラムはあられもなく声を上げ続けた。


「はぁ、はぁ…は…」
「今年は全部食ってやったぞ♪」
「な、何言って…っちゃ、もぉ…っ!」
にししと笑って顔を覗き込んだ俺を、ラムが涙目で睨んだ。
「怒ってんのか?」
「当り前だっちゃ!ダーリンの変態っ!」
顔を真っ赤にしてむくれている。あぁ可愛い。
「誰がヘンタイじゃっ。」
俺はラムをぎゅうっと抱きしめるとまたベッドの上に押し倒し、深く深く口付けた。
「んん…っご、ごまかそうとして…っ」
「そんなんじゃねーよ♪」
俺は笑ってラムを見返したまま、行為を再開した。


「あ、あぁっん…ダー…リン、ダーリ…ン…」
俺の耳元でラムはずっと俺を呼び続ける。
「…ラム…」
時折その声に答えながらも、俺はラムの中へぐいぐいと侵入していった。
「はぁ、ん…っ、ダーリン…っ、ダーリン…あぁんっ」
ラムの両手が俺の背中の上で宙を掴む。
その不安げな手を取って、きゅっと指を絡めて握ってやった。
「ラム…?」
名前を呼んでやると、固く閉じていた瞳をうっすらと開けて俺を見る。
「ダーリン、ダーリン…あ、ああぁ、ダーリ、あぁっ…!」
一際大きな声を上げて、ラムのきれいな身体が俺の下で跳ねた。


ドアの向こうから聞こえてくる心地よいシャワーの音。
俺はベッドの上に横たわってぼんやりと聞いていた。
「ふぅ、さっぱりしたっちゃ♪」
ラムがドアを開けて出てきた。
「もう、ダーリンがヘンなことするから、体中どろどろになった気分だったっちゃ。」
ラムがぷうっと頬を膨らませる。
「へーへー、どーせ俺はヘンタイだよ。」
そう言って返してやると、
「ダーリン、怒ってるっちゃ…?」
ラムがちらりと目線だけ向けて聞いてくるから
「べっつにー。」
と、わざと壁の方を向いた。
「あん、ダーリン怒っちゃやだっちゃ!」
ラムが焦ってこちらに飛んでくる。
「ダーリン、こっち向くっちゃ。」
俺の肩に置いて体を揺する華奢な手を、ぐいっと引っぱってキスをする。
「ちゃっ?!」
「嘘だよ、ばぁか。」
べっと舌を出して笑って言うと、ラムは「もおっ!」と、一言。
それからまたキャッキャと子犬のような声を上げて笑うのだった。



(終)

言いたいことは一杯一杯ありますが、何を言ってもみっともなくなりそうなので2つだけ…。
●き、嫌わないでやって下さい…(T_T) そんなに白い目で見ないでーーーっ!
●後編の後半、チョコレートをオンナノコの大事なトコに…というネタはパクリです。ゴメンなさいm(__)m
 榎本ナリコ『センチメントの季節4』に収録されている「ハートのチョコレート」って話。
 指摘される前に自白しました。



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