「ダーリン、待つっちゃーーっ!」
「待てと言われて待つ馬鹿がおるかぁ、アホーッ!」

授業終了の鐘と共に教室を飛び出し、
女の子に声を掛けまくるあたると、それを鬼のような形相で追いかけるラム。
いつもの光景である。


あたるは校門を走り抜け、何とかラムをまこうと、
塀の高い家や木の葉の生い茂った場所をちょろちょろと通って駆けて行く。
ラムはそれを見失うまいと空中からあたるの姿を追うが、
とにかくちょろちょろと動き回るので中々捕まえることができない。
「もーっ、待つっちゃ、ダーリンーッ!!」
ラムはいらいらして、電撃を放ち始めた。
「うわっ、やめんかいっ、おのれはーっ!」
走るあたるの足元に電気の火花が飛び散り、あたるは慌ててジャンプしてよけた。
「ったく、なんちゅー短気なやっちゃ!」


2人はいつの間にか土手を走っていた。
かなり長いこと追いかけっこを続けて、飛んでいるラムは平気だが、
あたるの方は走りっぱなしで息も上がり、足元がふらついてきた。
「ぜぇ、はぁ…はぁ…も〜だめだ〜…」
あたるは息も絶え絶えにそう呟くと、土手の草葉の上に倒れこみ、横たわった。
ラムがふんわりとその隣に舞い降りてきて、しゃがんだ。
「ダーリン、大丈夫?」
心配そうにあたるの顔を覗き込むラム。
一向に悪びれないその表情に、あたるがむっとした顔で答えた。
「おまーのせいだろーがっ!」
あたるは寝転がったまま、額に浮かぶ汗を手の甲でぬぐった。
「何でちょっと女の子たちをお茶に誘っただけで、ここまで疲れさせられにゃならんのだ。」
「教室中の女の子に次々と声をかけてたクセに、何がちょっとだっちゃ!」
ぷぅっと頬を膨らませてラムが抗議した。


すっかり秋らしさを増した土手は、夏の青々とした力強い草から
涼やかな風にたなびくピンクや白のコスモスに、その色調を変えていた。
心地よい空気を運んでくる風に、2人とも目を閉じる。
「気持ちいいっちゃ…。」
「そうだな…。」
お互い一言だけ発して、しばらくそのままでいた。


「痛…っ!」
「?!どうした、ラム?」
ラムが急に声を上げたので、あたるは驚いて起き上がり、隣に座るラムを見た。
するとラムは、両手で顔を覆っており、あたるには様子が分からない。
「ラム、どうしたんだよ?」
あたるがもう一度聞くと、ラムが小さな声で答えた。
「目に…何か入ったみたい…目が痛いっちゃ…。」
「目?」
ラムが目をこすろうとするのを、あたるが止める。
「よせよ。どれ、見てやるから、手ぇどけろ。」
あたるがラムの顔の前に手を伸ばして、瞳を押さえるラムの手に触れる。
「や…っ、痛い…」
「大丈夫だって、いいから手を離せ。」
ラムが痛くて嫌がるのを何とかなだめて、ラムの手をどかした。
「どっちの目だ?」
「左…」
右手をラムの左頬にそっと添えて、ラムの顔を自分の方に向かせる。
そのまま右手でラムの左眼を少し開かせると、
顔を近づけて、涙で潤むラムの瞳を覗き込んだ。
「…別に何もなっては…」
あたるが言いかけたその時。


「あーーーっ!このアホ、ラムちゃんに何さらしとるんやーーーっ!!」
「い゛っ?!」「っちゃ?!」
聞き慣れた声に2人が顔を向ける。
土手の上には、トラジマのおむつを身につけた宙に浮かぶ幼児と、
タイヤキの袋を抱えた大柄過ぎる妖しげな猫。
「ジャリテン!」「テンちゃん!」
「あ〜た〜る〜ぅ…おのれはラムちゃんに何しとるんやー!」
「何って…」
テンに言われてラムの方に向き直ると、あたるは自分達の状態がいかなるものか初めて気づく。
「わっ、わっ、ち、違う、ジャリテン、貴様ガキのクセに何を考えとるんじゃ!」
あたるが慌ててラムから手を離したので、その拍子にラムの身体が軽く突き飛ばされた。
「ちゃっ?!」
ラムはびっくりして小さな叫び声を上げる。
しかしあたるの方は先程の自分達の様子を思い起こし、しかもそれをジャリテンに見られたことで頭が一杯、
ラムのことを気遣う余裕は微塵もない。



「えらいこっちゃ!アホがラムちゃんに手ぇ出して、ラムちゃん泣かしよったーっ!」
「何ーーーっ?!」
ますます焦って顔色の変わるあたるの様子がおかしくて、
テンはあさっての方角に向って更に声を張り上げた。
「ご町内の皆様ーぁ、諸星あたるというアホで助平な男が、
 可愛いラムちゃんに無理やり手を出して泣かせたんでございますーーぅ!!」
「な、ジャリテン、貴様、そんな大ウソ叫ぶ奴があるかーーっ!」
あたるは真っ赤になって怒ると、テンの元に一直線に走り、
「こぉんのクソガキァーーーッ!!」
とその小さな身体を引っ掴んで口をぎゅっと塞いだ。
「何のつもりじゃ、おのれはーっ!」
「ふがっふがっ…」
あたるの手を振り解こうと全身をじたばた動かすテン。
「…っぷはぁっ!」
何とかテンがあたるの手から逃れた。
「喰らえ、ジャリテンーッ!」
どこから取り出したのか、あたるが右手に持ったフライパンを大きくスイングする。
「させるかぁーっ!」
ゴオオオォッというすさまじい音と共に、テンが火炎攻撃を仕掛ける。
「くぉのーーっ!」
あたるは身を捩って炎を避けて、渾身の力を込めてテンをフライパンでジャストミート!
「あーーーーーっ!」
吹っ飛ばされそうになるテンの身体を
「ふんっ!」
と無言の迫力で受け止めたのはコタツネコ。
じっと睨むその目に圧倒され、さすがのあたるもひるんだ。
「ようもやってくれたなー!」
ジャリテンの反撃。
「何のっ!」
あたるはフライパンで応じる。


いつまでも続く高校生と幼児のケンカを、風にそよぐコスモスの花たちを背に、
ラムが見ている。
柔らかな風が触れるラムの右頬は少し赤味を帯びて、
大好きな人を見つめるその瞳は幸せの色をたたえていた。


ある晴れた日の土手にて          。



(終)

 このお話は、ある方々のダーリンとラムちゃんのコス写真を見て感激して、妄想したものです。
写真は、土手に座っている二人、ダーリンの手がラムちゃんの顔の辺りに、笑顔で伸びていて      、
というような情景です。一目見て気に入ってしまいました〜。


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