映画コンクールの日がやってきた。
撮影終了後、編集等の仕上げはしのぶと数人のスタッフによって極秘に行われた。
「主演に見せんとはどーいうこっちゃ!」
あたるがラムを味方に散々詰め寄ったが、しのぶは頑として試写会を行わなかった。
「コンクール当日までのお楽しみ〜v」
と返事をするばかりで、とうとうこの日まで来てしまった。
全校生徒が体育館に入り、クラスごとにパイプ椅子に腰掛ける。
あたる達2年生は会場の真中辺りに陣取っている。
館内はざわめき、今か今かとコンクールの開始を待ちわびていた。
体育館の電気がパッ、パッと消えて、舞台上にスポットライトが当たる。
司会を務める生徒会役員の登場だ。
校長挨拶、生徒会長兼審査委員長の挨拶などと続き、ようやく作品の上映が始まった。

プログラム通り順調に上映されていく。
恋愛モノ、シリアスものもあるが、やはり友引高校の生徒作品、ギャグやアクションものが多い。
館内はすぐに笑い声に包まれた。
「では、続きましてーー…、2年4組制作『ときめきハイスクール』です。どうぞ。」
司会の紹介が入った。いよいよだ。
読み上げられたタイトルに場内からクスクスと笑い声が洩れる。
まだ一度も完成フィルムを目にしていない、あたるを始めとする大部分のクラスメイトたちは、
ぐびびっと喉を鳴らした。

ラムが転校生としてやって来るところから映画は始まっていた。
ラムとあたるの出会い、そしてタイトルーーー。
甘いBGMが使われており、タイトルとも相まって恋愛色が前面に打ち出されている。
あまりに女の子趣味な演出にガックリと肩を落とすメガネ。
しらけた目のあたる。その隣でラムは、
「うわーっ!ダーリン、うちら写ってるっちゃよ、ほら!」
と大はしゃぎだ。
「馬鹿、騒ぐな!」
ラムの頭をぐいと押し下げて、あたるはこそっと場内の他生徒の反応を窺う。
全学年各クラスにうようよと存在するラムのファンクラブの連中。
ただでさえ時折不幸の手紙が下駄箱に届いたりするのだ。
こんなノロケ映画を見せられた日にはーーー…。
あたるはちらちらと辺りを見回すが、今のところ特に殺気立っている様子はない。
しかし、
「おい、何であたるとラムちゃんなんだよ。」
「って言うか、しのぶ以外のキャラはほぼそのまんまじゃない。」
「なぁに、おノロケ話なのぉ?」
などなど、小声で話しているのが嫌でも耳に入ってくる。
あたるは会場から飛び出したい衝動に駆られた。
「く…っ、我慢だっ。女の子たちとのデートの為だ。」
あたるは膝の上でゲンコツをぎゅっと握り締めて俯いた。

そうしている間にも映画はどんどん進んでいく。
ラムに誘いをかける面堂、メガネ(助監督と兼ねての出演)、チビその他男子生徒。
それには目もくれずに、あたるを追いかけるラム。
幼馴染の彼女・聖子との仲を邪魔されて、ラムを邪険にあしらうあたる。
あたるに追い回される他の女子生徒達ーーー。
いつも通りの風景がスクリーンに映し出される。
教師役のカクガリが英語の授業を妨害され、あたる達に踏みつけにされる度に、
場内から拍手と歓声が沸き起こった。
温泉マークは苦虫を潰したような顔をして映画と観客たちを見ている。
そんな騒がしい時間の中で、少しずつ、スクリーンの中のあたるとラムの距離が近くなっていく。

「ラム、可愛いよね。」
「うん、女の私から見てもやっぱり可愛い。」
あたる達より後ろの方の席から声が聞こえる。おそらく3年生だろう。
しのぶは満足そうに頬を緩めるが、肝心のラムには全く聞こえていない。
スクリーンの中のあたるに見入っている。
ラムはいつの間にか無意識に、隣のあたるの腕に自分の腕を絡めていた。
あたるはそれを殊更気にすることもなく、組んだ足の上で頬杖をつきながら映画を見ている。

話は中盤に入った。
街中でガールハントに興じるあたるを怒り心頭で追いかけるラム。
やっとのこと追いついてがぶりと噛み付くが、ふと気づくとあたるはもういない。
代わりに、うつし身の木の幹がゴロリと地面に転がる。
「もぉっ!あたる君のばかーーーーっ!」
スクリーンの中のラムが大声で叫ぶ。
「ばかぁ…。」
徐々にカメラが寄っていき、ラムのアップ。
さっきまでの鬼のような形相がだんだんと崩れ、やがて瞳に涙が滲む。
涙が目から零れる前に、ラムが顔を両手で隠し、うな垂れた。
「どうして…他のコがいいっちゃ…?」
ラムの呟きに場内がシーンとなった。

教室で1人あたるを待つラムが映し出される。
教室の戸が開いて、あたるが入ってくる。
一緒に帰ろうと慌ててついて来るラムを、あたるが振り返って優しい声をかける。
嬉しくて顔がほころぶラム。

あたるは頬杖をついたまま黙ってじっと映画を見ていた。
ラムが時折隣から「ダーリン、ちゃんと見てるっちゃ?」などと耳元で話し掛けてくる。
うるさいので、あたるは一言の返事もしない。
「こうやって見ると、結構普通のカップルって感じね。」
「ラム、撮影中幸せだったろうね。」
隣のクラスの女子のひそひそ声が聞こえる。
今度はラムの耳にも届いたようで、皮肉めいた言葉に笑顔が固まった。
「でもさぁ…、カップルってより…」
「あ〜、分かる。やっぱりラムの片思いっぽいよね。」
「諸星君は割と冷静っていうか、目が冷めてるよねぇ。」
クスクスと忍び笑いがする。
ラムはあたるに絡めている腕にきゅっと力をこめてしがみついた。
「そんなこと、ないもん…。」

映画は後半も後半、クライマックスシーンに突入した。
「おい、あたる。」
「ん?」
後ろから背中を突かれて振り向くと、パーマとメガネがいた。
「お前、ちゃんと見とけよー。」
「悔しいが、非っ常に悔しいが、ラムさんのために、最高の映像に仕上げたんだからな!」
にやにや笑うパーマとキッと睨むメガネ。

スクリーン一杯に広がるオレンジ色の空。
運動場から見るオレンジ色の校舎。
カメラが徐々に寄って行き、1つの教室の窓を写し出す。
風に揺れる白いカーテンの向こうに見える2つの人影。
窓に背を向けて立つ少女の緑色の髪が風に揺れる。
少女の正面にいる少年の顔はオレンジ色の影を落とし、表情が読めない。
少女のアップに切り替わる。
「うちは、あの日からずっと、あたる君のこと…」
赤味を帯びた唇が動く。蒼い瞳は目の前にいるただ1人を見つめる。
「好き…大好きだっちゃ…。」
少女の長い髪がふんわりと宙を舞うと、少女は少年の胸に顔を埋めた。

「ヒューーーっ!」「イイゾーーーっ!」
下卑た歓声が場内のあちこちから一斉に上がった。
映画に見入っていたラムが、突然の大歓声にびくっと身を起こして、辺りをきょろきょろと見回す。
生徒達はピィッと口笛を吹いたりキャアキャアと黄色い声を上げたりしている。
「な、何だっちゃ…?」
ラムはみんなの反応に驚いて目を丸くしている。
「何よ、もっと静かに見れないの!?」
しのぶがキイッと怒り出す。
だがあたるは、さっきと変わらない体勢でじいっと映画を見ていた。
ーーーー自分達と同じ学校の奴が舞台の上で抱き合っておるのだ、騒ぐのは当り前じゃないか。

だがその騒ぎも、ほんの数秒で止まった。

「ラム。」
あたるを見つめるラムの顔がアップで映し出される。
大きな蒼い瞳を覆う長い睫毛がぴくっと動く。
ラムの柔らかそうな唇が微かに動いた。
画面は2人の全身を写し出す。
ラムの顔があたるに近寄っていき、キスを予感させる。

急に静かになったことに、今度はあたるが驚いた。
顔を上げてきょろきょろと辺りを見回す。
生徒達は皆、舞台の上のスクリーンを真っ直ぐに見ていた。
無言。誰も声を出さない。
そこへ、
「あっ!」
女子生徒が悲鳴のような声を上げた。
あたるは「何だ?!」と舞台の方へ顔を戻した。

スローモーション。
ふらぁっと揺らいだ少女の身体を、少年の腕が包み込んだ。
長い緑色の髪が少女の動きと共に揺らめく。
宙を舞う幾筋もの髪の間から一瞬だけ映し出された少年の目は、
まっすぐ彼女だけを見つめ、優しかった。
幸せに包まれた少女の顔。蒼い瞳が涙で潤んでいる。
少年の広い胸に頬をすり寄せ、震える両手をゆっくり彼の背中へと回す。
「好き…大好きだっちゃ…。」
さっきと同じ言葉なのに、さっきとは違って聞こえる。
少年の手がそっと少女の頬に添えられ、2人の顔が近づいていくーーーー。

あたるはスクリーンに映し出された自分達の姿を呆然と見た。
ーーーこんなんだったっけ?
「…たる、おい!あたるっ。」
後ろから肩を揺すられて、
「へ?!」
ようやくあたるは我に返った。
ぼんやりと後ろを振り返ると、にやにやと笑うパーマの気色悪い顔があった。
「ど〜だ、よく撮れてっだろ〜!」
「…あ、あぁ…。」
「言っておくが、あれはラムさんの素晴らしい演技があったからこその、名場面なんだからな!」
聞かれもしないのに、メガネが威張って口を挟んだ。

映画の中の2人の気持ちが通じ合い、無事ハッピーエンドと相成った。
「単なるおノロケ映画かと思ったけど、いい演技してたじゃない?」
「えー? あれは演技じゃないでしょ。素でやってたって。」
エンディングが流れる中、ようやく会場に観客達のざわめきが戻ってきた。
「くっそー!あたるの奴ーっ!」
「でもまぁ、…なぁ?」
「ラムちゃんの、あーんな幸せそうな顔見せられちゃあ…」
「怒るに怒れんわなぁ…。」
ぼやくラムのファンの連中。

エンディングには撮影中の慌しい様子や休憩中のふざけている様子などが写っている。
カメラに向かってにっこりピースサインをするヒロインのラム。
続いていつものにゃはは笑いで同じくピースする相手役のあたる。
カメラを抱えたパーマや教師役のメイク途中のカクガリ。
NG映像では、ずっこける面堂や本気であたるに噛み付いて衣装を破いてしまうラムなどもあり、
観客はケラケラ笑って見ていた。
2年4組の面々も同じこと。初めて見るNGやスタッフ紹介の映像に
「いつの間にこんなの撮ったんだぁ?」「やだぁ!こんなの流さないでよぉ!」
と、笑って見ていた。
あたるやラムもスクリーンを指差して笑っている。
そのあたるの指が、ぴたっと止まった。
そして急に大声で叫んだ。
「…あ、あ、あああぁーーっ?!」

立ち並ぶ木々を背に芝生に腰を下ろして、何やら言葉を交わすあたるとラムが写っている。
しばらく会話を交わした後、ラムがあたるに抱きついた。

あたるはスクリーンを指差したままで、目を大きく見開いたまま固まった。
ラムは口をあんぐりと開け、
「これ…! 何でだっちゃ…?!」
信じられないといった風でスクリーンに見入っている。
しのぶが、
「ちょっとぉ、みっともないからやめなさいよ〜。」
と、あたるの手を下ろさせた。
「し、しのぶ…お前…まさか…、」
あたるがゆっくりと首を回してしのぶの方を向いた。
「まさか…何よ?」
にやり、としのぶが目を細める。
その間にもエンディング映像は進んでいく。
撮影シーンが数秒写った後、またあの芝生が写りだす。
「ま、またっ!?」
あたるが再び声を上げた。

缶ジュースを片手に、あたるとラムが台本を覗き込んでいる。
顔を寄せ合って1冊の台本を見ながら、何かを話し込んでいる。

照明係、小道具係と一人一人の顔のアップが写され、紹介される。
2、3人済むと、また同じ風景が写った。
芝生に寝転がっているあたる。
その隣に膝を立てて座っているラム。
あたるの頭に葉っぱが一枚ひらひらと落ちてくる。
ラムが笑いながらそれを手に取り、ついでにあたるの鼻をくすぐった。
大きなくしゃみをして起き上がり、あたるがラムに何かを怒鳴る。

観客はざわめきながら映像に見入っていた。
「映画も良かったけど、こっちの方があの2人らしいわね。」
「そうね、あんまりベタベタしてないけど、まぁこっちの方が自然に見えるわ〜。」
「諸星君、結構真面目にやってるじゃない。」
「おい、これって映画のワンシーンか?」
「いやぁ、こんな場面なかっただろ?」
周囲から聞こえてくる声があたるの脳内にガンガン響く。
ーーー何で!? 何でこんな映像があるんだーーーーーーー!?
「お、また出てきたぜ?」
男子生徒の声に、あたるの目が最大限に見開かれた。
「げっっ!?」

また同じ芝生。
ラムが1人で座っているところに、後からあたるがやって来た。
少し離れた場所にあたるが座り、ラムがあたるに飛びつく。
あたるは鬱陶しそうにラムを引っぺがす。

「あ、あ、あ……っ!」
あたるはスクリーンを凝視したままゆっくり立ち上がった。
脳裏では高速巻き戻しでこの時の自分とラムの記憶が再生される。
この後、俺とラムはーーーーー……!
あたるは全身の血の気がサーッと引いていくのを感じた。
「や、やめろっ!フィルムを止めろーっ!」
あたるは前に座っている男子生徒の頭を踏みつけて、舞台に駆け寄ろうとした。
「ダ、ダーリン、どうしたっちゃ!」
急にあたるが駆け出しそうになったので、ラムが慌てて止める。
「馬鹿、離さんかいっ! このままいったら…っ」
自分の服を引っ張るラムを振り解こうとするが、
「落ち着きなさいよ。」
と、ラムに続いてしのぶの力が加わってしまう。
「こ、これが落ち着いて…っ、しのぶっ!お前、どうしてこんなモンーー…っ!」
観客のざわめく声が段々小さくなってきた。
あたるは焦って振り向いた。

スクリーンに映し出された映像。
徐々にあたるににじり寄っていくラムと、それに合わせて体を後ろに引いていくあたる。
ラムの手があたるの頬に添えられる。
徐々に近づく2人の横顔。
見つめ合う目と目。
ラムの唇が小さく動く。
(好き、大好き。)
それに答えるかのようにあたるの手がラムの細腰に回される。
ゆっくりと2人の顔が近づいていく。
降りていく瞼。
2人はキスをした。

どわあぁっっ!!
館内にどよめきが起こった。
「い、今、キスしたよな!?」
「何、今のホンモノ!?」
「おいおいおいおい!???」
あたるは立ち上がって前に座る男子生徒の頭に片足を乗せたままの体勢で、固まった。
それを力ずくでラムが椅子に引き摺り下ろす。
「ダ、ダーリンっ!」
「あ、あ、あ…」
あたるは固まったまま、声もまともに出せない。
「あ〜た〜る〜ぅ…っ!!」
背後から低い唸り声がした。
「この時を待っていたのだ…。どういうことか説明してもらおうか〜? ああっ!?」
額に青筋を立てたメガネが、あたるの肩をぎゅうっと引っつかんで揺する。
すると、あたるの体はガクンと椅子に沈んだ。
「おい、あたる!」
メガネが身を乗り出してあたるの顔を覗き込む。
ーーーあたるは真っ赤な顔をして、右手で口元を覆って俯いていた。




全ての作品の上映が終了した。
「では、各賞の発表をします。」
生徒会役員が表彰式の進行を務める。
「主演女優賞、2年4組制作『ときめきハイスクール』のヒロイン、ラムさん!」
司会が声高らかに読み上げる。
わあぁっと歓声が上がり、ラムは頬を紅潮させながらも、ぴるる…と舞台の上に降り立った。
ラムの手に小さな盾が渡される。
「おめでとうございます。この喜びを誰に伝えたいですか?」
「もっちろん、ダーリンに、ですっちゃ!」
元気に笑顔で答えるラム。
ピュウッと冷やかすような口笛が会場から聞こえた。
隣では審査員特別賞の盾を手にしたしのぶが微笑んでいる。
にっこり笑うラムの視線の先にはしかし、あたるの姿は無かった。
「あたるくんも舞台に上がれば良かったのにね。」
しのぶが苦笑いすると、
「今頃どこかでフテ寝でもしてるっちゃ。」
と、ラムが明るく答えた。




映画コンクールが終わった翌日。
朝、教室の戸を開けて入ってきたあたるは、まっすぐしのぶの所へ来た。
「あら、おはよう、あたる君。」
「しのぶーーっ!約束は覚えてるだろうな〜ぁ?」
「デートでしょ? 勿論覚えてるわよ。こっちの期待に答えて大熱演してくれたんですものね。」
しのぶが人差し指を自分の唇に当ててウィンクする。
「く…っ、隠し撮りなんかしやがってからに…。」
「ん〜、何か言ったぁ?」
「別に! それよりデートだ、デート!」
鼻息を荒くして迫ってくるあたるの目の前に、しのぶが2枚の紙切れを突きつけた。
「今度の日曜日ね♪」
「オッケーオッケー!…っておい、この券、100円割引券じゃないか。」
「そーよぉ。映画代はあたるくんのおごり、よね?」
小首を傾げてにっこりスマイル。
そこへ、
「諸星くぅ〜ん、おはよう!」
明美があたるの肩をポンと叩いた。
「デート、よろしくね!一緒にお買い物するの、楽しみにしてるわぁ。」
「え、えへへへへ〜〜明美ちゃあん!」
あたるが抱きつこうとするのをひらりとかわして、
「あたし、この間から目をつけてたジャケットがあるのよぉ。買ってくれるでしょ?」
両手を頬に添えて、上目使いにスマイル。
「…え?」
あたるの口の端がひくっと歪んだ。
「あ、あたるく〜ん、テニスのラケットが壊れちゃったのぉ。」
奈保子だ。
「え、そんならレンタルすれば…」
「えぇ〜!? せっかくのデートですもの、マイラケットが欲しーい! あたる君、買ってくれる?」
「…え、え?」
「えーーっ!? だったら私だってマイボール買って欲しーーい!」
聖子が割り込んできた。デート先はボーリング場だ。
「ちょっと! あんたより私の遊園地デートの方が先でしょ!」
芳恵が奈保子を押し退けて登場。
「諸星くぅん、デートの日は1日乗り物に乗りまくって全種類制覇よ!」
「う、うん、そうだね!」
あたるの手をぎゅっと握ってくる。
「乗り物代とご飯代、よろしくね!」
「うん、うん…へ?」
次々と女子生徒があたるを取り囲む。
1人、また1人、とあたるにデートをせがむが、全てに金がかかる。
「みんなあさましいわね!」
最後にやってきたのはのは秀美。デート内容は「静かな公園で散歩」である。
「ひ、秀美ちゅわ〜ん!」
ーーー公園で散歩するだけなら一銭もかかるまい。
ーーーこうなったらもう彼女だけでも…。
あたるの頭の中でソロバンを弾く音がした。
「駅前の公園、おいしそうな屋台が日中に並んでるのよぉ。
たこ焼きにー、クレープにー、トン汁にー、焼きそばにー、フランクフルトにー…」
指折り数えて、スマイル。
「はは、あはははは…。」
あたるは乾いた笑い声を漏らすしかなかった。


「ダーリン、ちょっと可哀相だっちゃ。」
窓際で壁にもたれてその光景を眺めるラム。
「まあね。」
ペロッと舌を出してその隣りにいるのはしのぶだ。
「はい、ラム。」
しのぶがラムに差し出したのは一本のフィルム。
「わぁ! ホントにいいっちゃ?」
ラムの瞳がきらきらと輝いた。
「もちろんよ。私よりあなたが持ってる方がよっぽどいい記念になるもの。」
「ありがとだっちゃ!」
フィルムを胸に抱いたラムの頬がピンク色に染まる。
それはまさに「ときめき」の色。
スクリーンの中と同じように、ラムは幸せだった。




(終)

長かったー…。


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