とあるデパート。
制服姿の2人。
鞄も持っているので、どうやら学校帰りらしい。

「あ、ねぇダーリン、この服どうだっちゃ?似合うけ?」
肩に洋服をあてて、あたるの方を振り返った。
随分ご機嫌の様子。
今日は珍しく2人一緒に学校を出て、面倒くさそうなあたるをひっぱって連れてきたのだ。
いわゆる「放課後デート」ってなもんである。
超能力でなくとも、うきうきした気分で足が地に着かない。
「ん〜、い〜んじゃねーの。」
対するあたるの返事はつれない。
辺りをきょろきょろ見回して、ターゲットにする美女を物色している。
「じゃあ、こっちはどう?ね?」
あたるの態度を気にも留めず、相変わらずにこにこして、あくまでマイペースで聞いてくる。
「何でも似合うんじゃないか?」
違う方向を見ながらあたるが答える。
つまりは「何でもいい。」ってことだ。
「もぉ、ダーリン、ちゃんと見てる?」
ぷぅっと頬を膨らませて怒っている真似をしながら、
あたるの制服の袖をくいっと引っ張る。
「次は4階に行って靴を見たいっちゃ!ダーリン、エレベーターに乗ろっ!」
あたるの腕をぐいぐいと引っ張って連れて行く。
「いてて。引っ張るのやめーいっ!」

ボタンを押してエレベーターを待つ。
ここのエレベーターは2階の奥の方に設置されていて、ちょうど商品の陰になりあまり人目につかない。
そのせいで使う客が少ないため、楽に乗り込むことができる。
ラムはウィンドーショッピングで、あたるはガールハントで、このデパートをよく訪れるので、
この穴場も知っていた。
ランプが点灯し、エレベーターが到着した。
扉が機械音をたてて左右に開かれる。
何とはなしに乗り込もうとした2人は、突如眼前に現れた光景に固まった。
派手な装いのアベックが、身体をぴったりと密着させてしっかと抱き合い、
おまけに熱い口づけを交わしているではないか。
ようやくエレベーターの扉が開いていることに気づいたアベックが、
身体を離し、お互いの手をお互いの腰に回した体勢になって、商品の向こうへ消えていった。
残された2人は気まずそうにエレベーターに乗った。

狭い密室の中、2人きりだった。
さっきまで浮かれていたラムも一言もしゃべらない。
あたるはラムの右側に立ち、左手には鞄、右手はポケットに入れて、
エレベーターの壁にもたれている。
視線は上部の階数表示に固定され、ラムの方を見ようとしない。
ラムが重い沈黙を破ろうと試みる。
「夏に向けて、明るい色のサンダルが欲しいっちゃ!」
あたるに話し掛ける。
声が上ずっているのが明らかに分かり、その言葉を聞いたあたるがぷっと吹き出した。
そして一言。
「…すごいモン見ちゃったなぁ。」
ぎくり。
ラムの顔が赤らんだ。
「あ、あははは…。仲良さげで羨ましいっちゃ!」

本当に、そう思ったのだ。
自分とあたるでは絶対無理。
ダーリンは人前でべたべたするの嫌がるもん。
いや、2人きりでも嫌がるか。
あ〜あ。
たまにはあ〜ゆ〜ことしてみたいっちゃー…。

鞄を持つ手にきゅっと力が入る。

うちもダーリンと…。

エレベーターが4階に到着し、扉が開き始めた。
ラムが一歩足を踏み出そうとしたその時。
ぐいっと肩を引き寄せられ、身体がエレベーターボックスの中に強引に引き戻された。
「っちゃ?!」
急なことでバランスを崩したラムの身体を、あたるが左腕で支える。
右掌で「閉」ボタンを覆い、その身を屈ませると、
ラムの唇に自分のそれを重ねた。
4階のエレベーター乗り場で待っていた客が、
目を丸くして2人が抱き合っている光景を目撃したのはほんの1、2秒だけ。
開きかけた扉はすぐに閉じられ、エレベーターは再び上昇を始めた。

またもや狭い密室の中の2人。
あたるは、エレベーターが上昇を始めると同時にくちびるを離した。
ラムは絶対的に予想してなかった事態に、今度こそしゃべることができなかった。

さっきのは夢だっちゃ?
ダーリンがうちにキスしてくれたなんて。

今度はあたるから沈黙を破った。
「俺、本屋に行くわ。」
その言葉と同時に、再びエレベーターの扉が開き、
あたるは5階の売り場へ駆け出した。

「あ、ダーリンッ、待っ…。」
言いかけたラムの目に映ったのは、
僅かに見えた赤く染まったあたるの頬と広い背中。
追いかけようとしたラムの目の前で扉がすっと閉まり、エレベーターが動き始めた。

1人残されたエレベーターの中、
両腕でぎゅっと鞄を抱きしめ、幸せに蕩けそうな表情のラム。
自然とこぼれてくる笑みをかみしめながら、
5階の停止ボタンを僅かに震える人差し指で押した。


(終り)


軽めの話を書いてみたくなりました。
てへv

この話は、「りぼん」で連載中の「グッドモーニング・コール」の真似っこです!
是非、元の漫画も読んでみてください。
上原君が格好良くって、ダーリンにおんなじコトしてして欲しくなっちゃったのだ〜o(>_<)o


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