本日の授業終了の鐘と同時に校門を走り抜ける男子生徒とそれを追いかける女子生徒の影。
毎度毎度の2人。

「おっじょっおっさ〜んvv」
「だぁーりん!もーーぉっ!!待つっちゃああぁぁーーーっ!」

紅葉した木々の下をくぐりながら、2人のおいかけっこは続く。
只今の時刻は4時17分。
11月の半ばともなると日の傾くのもはやくなり、
お昼頃はぽかぽかしていたお日様ももう雲に隠れてしまっている。
しかし、何時如何なる時にも、彼の燃えるハートは可愛い娘(美人のお姉さんも可)を捜し求めて、
その炎は静まることがない。

「あ、ねぇねぇ、きみ〜♪住所と電話番号教えてーーーっ!」
「いい加減にするっちゃーーーーっ!」
ピッシャーンッ!!
ラムの雷があたるめがけて放たれるが、あたるの方はひょ〜いと軽やかに身を翻すと、
次のターゲットへと移動していく。



いつの間にか、2人は駅前の大通りを走っていた。

「ダーリン、いつまでガールハントする気だっちゃ、もーーーっ……??」
ラムはあたるを追跡する足を止め、ふわりと地上に降り立った。
そして、斜め上からずっと先の方へと大きな瞳を動かして街路樹を見る。
次にくるっと右を向いて、店のショーウィンドーを見た。
今度は車の行き交う道路を挟んだ向かい側のビルの窓を見上げる。

「わ…ぁ…、何だっちゃ、これー…。」

ラムの怒鳴り声と危険な放電の音が急に聞こえなくなったので、
あたるは不信に思って足を止め、振り向いた。
すると10メートル程後ろに、ラムが立ち尽くしているのが見えた。
「何やってるんだ、ラムの奴。」

あたるはガールハントを止めてラムの元へと駆け寄った。
「おい、何ぼーっとしとるんじゃ。」
「えっ?!あ、ダーリン…。」

あたるに肩をぽんと叩かれて、ラムははっとしてあたるの方を見た。
しかしまだ何やら惚けた表情をしている。

「ねぇ、ダーリン、何で木に電気が巻きついてるっちゃ?」
「は?」
ラムが指差した先を見ると、それは街路樹に施された電飾のイルミネーション。
時計の針はもう5時半に近づき、いつの間にか空は完全に暗くなっている。
しかし2人がおいかけっこしていた大通りは、今年もやってくるクリスマスを前に、
電飾がきらきらと輝いていた。

「あぁ、あれは…、もうすぐクリスマスだから、
ああやって木に飾り付けをして、気分を盛り上げてるんだ。」
自己流の説明を堂々とラムに話す。
「ふーん。でもダーリン、クリスマスっていうのは、
キリスト教っていう宗教の行事だって授業で聞いたっちゃ。
ダーリンたちの国にはキリスト教の人が多いのけ?」
「んーまぁ、日本人はお祭り好きなのさ。」
「ふーん。でもダーリン、あんな風に木に電球を一杯巻きつけて明かりをつけっ放しにしたら、
木がかわいそうだっちゃよ。」
「い?!木は…うーん、まぁ、細かいことは気にするな!」

ラムはまだ納得がいかないといった顔で電飾を見つめて首をひねった。
そんなラムの様子に、あたるは

「い〜じゃないか、きれいなんだから。…お前、意外にムードのない奴だなぁ。」

呆れた声で言った。
あたるのその言葉にぴくりと反応し、ラムが言い返す。

「失礼だっちゃねー、ダーリン!うちだって、綺麗だなって思ったっちゃ!
でも、思ってすぐ、何か木がかわいそうかもって気がしてきたから、だから…っ」
一旦言葉を切った。
もう一度視線を金色の木々に向ける。

木がかわいそう≠ニ思う気持ちに嘘はなかった。
だが、あたるの言うことも分かった。

「…きれいだっちゃぁ…。」

ラムはぽそっと呟いた。
冷えてきた外気に、無意識に両手で頬を覆った。

隣で街路樹の電飾を見上げるラムの瞳は、木々と同じようにきらきらして見える。
あたるは、一瞬その表情に目を奪われた。
そして無意識に伸びそうになった右手を左手で慌てて抑えると、ラムに背を向け、歩き出した。

「おい、もう帰るぞ。」
「あん、待って、ダーリン!」


世間はもうクリスマス模様。
宗教の入り混じった国日本では、クリスマスは冬の大事な年中行事である。
キリストの生誕を祝わなくとも、プレゼントは国中で受け渡しされ、
街頭や住宅には電飾のイルミネーションが施される。
ショーウィンドーは緑と赤の布やリボン、金銀の鈴で彩られ、
ガラス戸には白く浮き出たトナカイが踊る。
どこからか聞こえてくる軽快なクリスマスソング。
ケーキ屋から漂ってくる甘いバニラクリームの香り。
派手に売り出されている靴やバッグ、アクセサリーの数々。
どれもが街を歩く人々の気持ちを高揚させ、足取りを軽くさせる。


ラムが地球にやってきて、あたるの元で暮らすようになって初めての冬。
初めてのクリスマス。


何の予定も約束もないのに、
きらきらと眩しいイルミネーションに頬を紅潮させて、
ラムはあたるの隣を歩いていく。

いつもは早足でラムを追い抜くのに、
何故か嬉しそうなラムの様子に、
あたるは何となく、ラムと歩調を合わせて大通りを歩いていく。


すれ違う恋人達は手を繋ぎ、肩を寄せ合い、腕を組んで笑い合っているのに、
もうすぐクリスマスを迎える大通りを、ただ並んで歩いているそれだけで、
幸せな気分を味わえる。

これこそサンタクロースがくれたプレゼントなのかもしれない。


(終)

クリスマスの街の様子ってとっても好きなんです〜v



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