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無数の星たちが瞬く大宇宙の中、ぽっかり浮かんでいる虎縞のUFOが一台。
ラムのものである。

「るんちゃっちゃーるんちゃっちゃ〜♪」
手つきも軽やかに、何やら煮溶かしている。
甘い香り、とろりと蕩けるチョコレート。

そう、明日はバレンタインデー。

「バレンタインデーなんて、日本の菓子会社が企てただけの、根拠も何もないただの商業用イベントだ。」
そんなことは分かっている。
要はきっかけなのだ。
たかだか1会社の企画がここまでの国民的年中行事になっているのが何よりの証拠。
それにのっかって楽しまなくては損ではないか。

「ダーリンに絶対食べさせてやるっちゃーv」
宇宙人でも地球人でも恋する乙女の想いは世界共通。
明日の決戦に向けて準備万端、気合十分。
ぼふっ。
ラムが鍋に入れた素材がチョコレートと化学反応を起こし、ピンク色の煙が部屋を埋め尽くした…。



「おっはー。」
「おはよー。」
適当なあいさつを交わしながら、学生達が校門をくぐって行く。
その中で、せわしなく移動している人間が一人。
「あ、明美ちゃーん、チョコちょうだーいv」
「聖子ちゃん、おはよう。今日の君は特別可愛いね。」
「あれ、明菜ちゃん、いい香り。ん〜、これはもしかしてチョコレートかなー?」
諸星あたるである。
次々と女の子に声を掛けては、ビンタや肘鉄をもらい、また次のターゲットへ移動。
諦めるという言葉は彼の辞書にはない。
その頃、ラムは既に教室に入り、きれいにラッピングされた小箱を1つ、大事そうに手に持っていた。
「ラムさん、おはようございます。おや、可愛らしいプレゼントですね。」
終太郎がにこやかに話し掛けてきた。
「おはようだっちゃ!」
ラムも笑顔であいさつを返す。ご機嫌だ。
「…諸星への、ですか?」
ラムの手に視線を落としながら、終太郎が恐る恐る聞く。
「だっちゃ!」
聞かれたラムは、誰かれ構わず言いたくて堪らないといった風で。
「ダーリン、早く来ないかなぁ。」
そわそわして教室の戸の方を見た。

「しのぶーー!僕のチョコはー??」
教室の戸を開けるなり、しのぶに飛びつくあたる。
「ないわよっっっ!!」
しのぶはあたるを力任せに引っぺがすと、ふんっと両腕で放り投げた。
「あん、ダーリン。」
ラムがあたるに駆け寄った。
「大丈夫け?」
と言いつつも、その表情はちっとも心配そうではなく。
にこにこにこにこ。
あたるは嫌な予感がした。
「さて、と。一時間目は何だったかな…。」
おもむろに立ち上がり、制服の埃を軽く払うと、自分の席へ足を進めた。
むっ。
「待つっちゃ。」
あたるの学生服の上着をぐいっと引っ張って引き止めた。
ぐえっ。
喉が締まり、息が苦しい。
あたるの顔が、一気に真っ青になった。
「あ、ごめんちゃ、ダーリン。」
ラムがぱっと手を離すと、げほげほとあたるが咳き込んだ。
「何すんじゃ、おのれはっ!!!」
「はい、ダーリン!」
あたるの訴えには耳も貸さず、満面の笑みで、掌の上にある小箱を差し出した。
あたるの表情がさーっと曇る。
そのまま無言で、その場を離れようと踵を返した。
バリバリバリバリッッッ!!
電撃炸裂。
「何で逃げるっちゃ。」
口をへの字にして、ラムが抗議する。
そして、再び贈り物をあたるの眼前に差し出した。
「うちが心を込めて作ったチョコレートだっちゃ。さぁ、受けとるっちゃ!」
「いやだ!」
「どうしてダーリンは、そういう女の子の真心を踏みにじるようなことを言うっちゃ!」
「死にたくないからだ!」
「どーいう意味だっちゃ。」
「言わにゃ分からんのか!」
「分かんないっちゃ。」
「まずい!というか、デリケートな俺の体質に、お前らの料理は合わん!」
そこまで言うと、あたるはさっと身構え、ぎゅっと目を閉じた。
電撃がくる…っと、思ったのだ。
が、何も起こらない。
恐る恐る目を開けると、ラムの頬に一筋の涙。
「え…。」
あたるはびっくりするやら拍子抜けするやらで、何も言えない。
「…せっかく心を込めて作ったのに…。」
自分の手を添えて、涙をそっと拭う。
「な、何も泣くこと…。」
動揺の隠せないあたる。
自分の背後からは不穏な空気を感じる。
「あたるぅ〜。貴様、ラムさんに何ということをーーっ!!」
「己の愚かさを思い知れ!!」
「何様のつもりじゃ!」
「この贅沢者!!」
両手で顔を覆って俯いてしまったラムと、今にも襲い掛かりそうな勢いで罵詈雑言を浴びせるクラスメート。
それらのプレッシャーに耐え切れず、つい、言ってしまった。
「わ、分かった、分かりました!食えばいーんだろ、食えば!ちくしょうっ!」
そう叫んでラムの手から小箱をひったくり、きれいなリボンと包装紙を無造作に破り捨てた。
…その言葉と行動に、ラムの口端が僅かに上がったが、あたるは気づいていない。
あたるが小箱の蓋を取ると、ハート型のチョコレートが可愛らしいレースペーパーの上に置かれていた。
チョコレートの表面にはホワイトチョコレートで
「ダーリンへv  ラム」
と書かれている。
一見、普通の手作りチョコレートだ。
しかし、あたるは、至極嫌そうな顔をし、
「…ええい、ままよ!」
と、チョコレートにかぶりついた。
☆(>_<?!)〉×♂★♀◎#¢◆※♭‡ΩβжЙФっっ!!!!!
言葉にならない絶叫を口にし、あたるが教室の天井まで駆け上がる。
顔面蒼白、目は見開かれ、唇は腫れ上がり、手足はがくがくと震えている。
そのままの勢いで床に激突し、そこで動きは止まった。
全身が痙攣している。
「…う〜む…。」
クラスメートたちは、さすがにあたるに同情した。
ラムは冷静にあたるを自分の膝枕に寝かせ、あたるの顔を覗き込んだ。
「ダーリン、大丈夫だっちゃ?」
その呑気な言葉に、あたるの中でナニカが切れた。
「だ、大丈夫なワケあるかーーーっっ!!」
上体を起こして怒鳴りつけるあたるに、ラムは一安心。
「大丈夫そうだっちゃね♪」
にこにこにこ。
ラムの様子にあたるの怒りは頂点に達した。
「お前、俺を殺す気かーーーーっ?!」
あたるの質問(ではない)には答えず、
「うちのチョコレート、どうだっちゃ?」
と聞いてくる。
辛いわーーーーーーーーーっっっ!!!!
今更、何を言っとるんだ。この俺の様子を見て分からんのか。
両の握りこぶしをわなわなと震わせ、あたるがラムを真正面から睨みつけた。
「…そんなに辛いっちゃ?」
あたるの恨みの込もった視線を穏やかに受け止め、聞いて返す。
「だーかーらー、そう言っとるだろーがっ!」
「じゃあ、甘いの、あげるっちゃ。」
にやり。
ラムは両腕をあたるの首に回し、あたるの顔を自分の方に強引に引き寄せた。
急のことで、あたるは身体のバランスを崩し、ラムの方へ倒れそうになる。
それを食い止めようと、無意識にラムの背中に自分の腕を回した。


一瞬だけ、瞳を閉じるラムの顔が目に映った。

後は、唇に感じる柔らかい感触と、自分の鼻先をくすぐる甘いチョコレートの香りだけ。


「…あ。」
ラムの唇が自分のそれから離れるまでのほんの数秒が、随分長く感じた。
あたるの首に腕を回したまま、ラムがゆっくりと瞳を開け、上目遣いにあたるを見つめた。
「甘かったっちゃ?」
にっこり。
「え…?っあ…。」
何が起こったのか、まだしっかり把握できない。
けれど、唇に残る心地よい感覚は決して不快ではなくて。
そのまま、ラムと見つめあう格好になる。
「あ〜た〜る〜ぅ〜…。」
ぎくり。
恐ろしいまでの威圧感を背中に感じた。
ちき…っとわずかな音がし、自分の右肩を横目で見やると、ぬらりと光る刃先が視界に入る。
「ひいっ…。」
驚いて飛び退くと、世にも恐ろしい形相の男共が、あたるを凝視している。
次の瞬間、怒り狂った男子生徒たちがあたるに襲いかかった。

「こらー、貴様ら、いつまで騒いどるんだ!席につけー!」
がらっと勢いよく教室の戸を開ける温泉マークの声に、殴り合いはようやく止まった。
男達の下敷きになっていたあたるはぼろぼろになって這い出てきた。
「ダーリン。」
ラムがふわりと飛んでくる。
「ねぇ、どんな味がしたっちゃ?」
無邪気に問い掛けてくるラム。
少し頬の赤らんでいるラムの幸せそうな笑顔に、あたるは一言だけ答えた。

「…血の味。」



(終り)


やはり、バレンタインは外せないでしょう!
平和ボケ日本万歳!
この話は、以前、同人サークルの会誌用に、漫画に描いて送ったものです。
今回、小説にしてみましたv
「バレンタイン・キッス」という題名は、国生さゆりwithおニャン子クラブのアイドルソング『バレンタイン・キッス』より。
可愛い歌でして、私、大好きなんですよ。

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