バレンタインデーも終え、ホワイトデーへと戦略を切り換えた友引町の商店街が、うちの高校にホワイトデーのイベント話を持ち掛けた。
あまり宣伝しなくとも、その日が近づくにつれて自然とムードも高まるバレンタインデーと比べると、活気のないホワイトデー。
そこでとりあえずはと、高校生に矛先を向けたのだろう。
それにしてもイベント好きな学校だよな…
まっ、そんな訳でそれぞれのクラスがホワイトデーに因んだ催しをすることになり、2年4組では女子が中心となって、“執事カフェ”に決まった。
なんでも今、巷で流行っているらしく、それに倣って男子が執事に扮し、マシュマロ等のデザートを提供するらしいのだが…俺としては執事カフェなんてのはつまらん!
どうせやるならメイドカフェの方が楽しい。
でもまぁ、どっちみち執事という名目で女の子に近づけるんだから良っか〜。
ラッキー♪
「あ・た・る・君!」
カフェの事を想像し、浮かれていた俺を現実に引き戻したのはしのぶだった。
「ちょっと良いかしら?」
「もちろんだよ、しのぶ〜・ちょっとなんて遠慮せず、さっ、こっちへおいで〜。」
「あたる君にお願いがあるの。」と俺の伸ばした腕を笑顔で躱しながらしのぶが言った。
「お願い?」
「えぇ。一緒に家庭科室に来て欲しいんだけど…」
「家庭科室?」
「カフェの制服のことでちょっとね。」
あ〜そう言えば、家庭科室で制服つくるとか言ってたよな。
でも俺に何の関係があんだろう…?
しのぶについて行きながら、あれこれ考えているうちに、何時の間にか家庭科室の前に立っていた。
「さぁ、入って。」
促されるままに入ってみると、燕尾服やら、ネクタイやら、いかにも執事ってかんじの小物がそこらじゅうに転がっていた。
「で、お願いとは?制服のことなら俺には分からんぞ。」
「そんなことじゃないわよ。それに制服ならもう完璧に出来てるわよ。」
「じゃあ、なん
「ちょっとそこで待っててね〜♪」
俺の質問を最後まで聞かずに、鼻歌交じりで準備室の奥へと姿を消したはのぶ。
机にもたれて待つこと数分。
しばらくすると、衣装ケースを抱えたしのぶが戻って来た。
どんな衣装なのかはカバーが掛かっていてよく分からん。
「さっ、本題に入りましょうか。」といつもは絶対に見せないような笑顔を見せるしのぶに、しきりと嫌な予感がする。
「しのぶ〜、俺ちょっと用事が…」
「あら、私より大事な用なんてあるの?」と思いっ切り腕を掴まれて敢え無く脱走失敗。
仕方なく話を聞くことにした。
「今度私達、執事カフェするじゃない?でもあれってよく考えてみると、女の子しか楽しめないのよね。」
何を今更…と思いながらも、先が全く見えない為静かに聞く。
「いくらコンセプトがホワイトデーだとしても、男の子にも楽しんでもらいたいの。それにただ単にするだけじゃ芸もないし…」
執事カフェやんのに芸なんているのか?
「だからね、どうしたら一番ベストな方法でやれるかって、女子一同でいろいろ考えてみたの。」
中々核心に触れてこないしのぶにやきもきする。
「でね、考えた結果がこれよ。」
そう言うとしのぶはさっとカバーを外した。
ランちゃんがいつも見に付けているようなフリフリのエプロンに、フレアスカートとブラウスのツーピース、清楚な雰囲気を醸し出す白のストッキング。
そしてレースのカチューシャ。
目の前に広げられた光景に、一瞬呆気に取られてしまう。
これってよくは分からんが…メイド服…みたいだな。
……って、ちょ、ちょっと待て!!
一体何故これを俺に見せるんだ!?
「し、しのぶ、一体これは?」
「もちろん、あたる君の制服よ。」
なっ、俺の制服だと?
じょ、冗談にも程がある。
「しのぶ〜、冗談はよせよ〜。どう見たってこれ、メイド服じゃないか!!」
「あら当たり前じゃない。だってそれ、正真正銘のメイド服だもの。言ったでしょ、ただの執事カフェじゃつまらないって。だからどうせならメイドさんも混ぜちゃおうってことになったの。きっと皆も楽しんでくれるわよ〜♪」
狼狽える俺を余所に、事の成り行きを意気揚揚と語るしのぶ。
「だ、だからって、何でその役が俺なんだよ〜。男なら他にもたくさんいるじゃないか。面堂とかさ。そうだ、面堂がいるじゃないか!うん、きっと俺より面堂の方がメイドさん、似合うって。俺が保証してやる!」
「んもう、分かってないわね〜、あたる君は。」
「何がだよ?」
「面堂さんや他の男の子じゃだめなのよ。あたる君、あなたじゃないとだめなの。女の子もみ〜んなあなたならこの執事カフェに華を添えてくれるって期待してるのよ。」
ったく、調子の良いことばっかり並べやがって。
「ね、あたる君やってくれるわよね?」
「やっ、で、でも俺がやるくらいなら女の子がやった方が絶対良いって!そうだ、女の子がメイドさんやったら男子も楽しんでくれるって!!」
俺は必死でしのぶを説得する。
普通に女装するだけなら未だしも、こんな可愛い恰好できるかっつーの!
例え着たとしても面堂や他の奴等に馬鹿にされるのが落ちだ。
そんな事を考えながらチラッとしのぶを見てみると、何やら考え込んでいるようだ。
「女の子のメイドね〜…」
しのぶのつぶやきに安堵する。
何とか俺の意見が採用されそうだな。
ふ〜良かった、良か
「分かったわ。あたる君がOKしてくれないなら、ラムに頼むわ。」
った…って、今何て?
「ラ、ラム?」
「えぇ。ラムにメイドをやってもらうわ♪」
「えっと、女の子み〜んなに、じゃなくて?」
「そうよ、ラム一人だけに。」
にっこりと笑いながらしのぶが続ける。
「女の子がメイドさんやったら在り来たりになっちゃうって思ったけど…大勢の中に一人だけ紛れ込んだメイドさんっていうシチュエーションもありね。逆に執事も引き立つし。」
オオゼイノナカニヒトリダケ?
「それにラムがメイドしてくれたら、あたる君の言う通り絶対に男の子も喜んでくれるわ♪あっ、それなら制服もつくり直さないと!さすがにミニスカートは可哀相かなって思ったから、長めの丈にしておいたけど…ラムなら大丈夫ね!サービスで思いっ切り短くしちゃお♪それに胸元もちょっと開けた感じにしたりして…
オモイッキリミジカク?
チョットハダケタカンジ?
そして止めの一言。
「そうだ写真撮影もOKにしちゃいましょ。これで大成功間違いなしだわ♪」
シャ、シャシンサツエイ?
「早速ラムにお願いしに行かなきゃ〜」
目をキラキラと輝かせるしのぶの横で固まってしまう俺。
たぶんラムはメイドさんをしてくれと言われたも、躊躇することなく即OKするだろう。
とゆーか、もし嫌だとしたって、しのぶの頼みだったら断ったりしないだろう。
頼られたりするのに結構弱いもんな、アイツ…
        エプロンドレスに身を包んだラム。
        大きく開いた胸襟から見え隠れする豊かな膨らみ。
        くびれを強調するように結ばれた、腰の大きなリボン。
        裾の広がったフレアスカートから惜しげもなく覗く、白いストッキングをまとった長い足。
        頭のてっぺんではレースのカチューシャが…
って、何想像してんだろ、俺。
別にラムがどんな恰好しよーが、どんな事しよーが、俺には全く関係…
あるっ!
確かにラムのメイド姿は見てみたいが、他の男に見せる気は微塵もない。
とゆーか、そんな姿のラムを他の男の前に出してみろ、飢えたライオンの群れにウサギを一匹与えて、仲良く遊べって言うようなもんだ。
とにかく誰にも…見せたく…ない…っ!
そんな事をラムにさせるくらいなら、俺がする方が余っ程マシだ。
でも今更どうやって切り出そうか。
「でもあたしとしては、やっぱりあたる君にやってもらいたいのよね。もちろんラムも捨て難いんだけど…」
その言葉にすぐ飛び付く俺。
「し、しのぶがそこまで言ってくれるなら、やっぱり俺がやるよ〜。どうせラムにやらせたって、執事カフェの華にはならんしな…うん。俺がみ〜んなの為に一肌脱いでやるよ!」
「あら、本当?ありがとう、あたる君!じゃあ、よろしくね。」
「じゃあ俺先に教室戻ってるわっ。」
そう言うと俺は家庭科室を飛び出し、あてもなく全力で廊下を走った。
俺がやると言った本当の理由がしのぶにバレるはずはないと思うけど、急に照れが襲ってくる。

執事カフェ当日、俺のメイド姿を女の子達はカワイイだとか、似合うだとか言ってくれたが、男子からは当然ブーイングの嵐。
「お前のメイド姿なんて見たくもないわっ!」
「何が悲しゅうてお前のメイド姿を拝まにゃならんのじゃ!」
「そーだ、そーだ。その服脱いでラムちゃんと交代しろっ!」
「ラムちゃんのメイド姿を見せろっ!」
そんな男共に、俺はメイドさんらしく笑顔で制裁を加える。
「そんな事おっしゃらないで、御主人様方♪」
ばぁか、ラムの御主人様はこの先ずっと俺だけだっつーの!
☆ E N D ☆


PS…遠ざかっていく足音を聞きながら、そっと微笑むしのぶ。
「ほんと、あたる君って単純ね〜。ちょっとラムの名前出すだけで…これからも使わせてもらおうっと、この方法。それにしても、ラムって愛されてるわよね♪」

諸星逢夢さんが、何と便箋に手書きで書かれた小説を、郵送して下さいました☆
ありがたいことです。ありがとうございます///

“執事”という今まさにトレンド最先端なネタで、うる星キャラが元気に騒いでいるのが見えます(^^)
メイドにしろ執事にしろ、「御主人様にお仕えする」というシチュエーションに萌えます。
ダーリン=執事(orメイド)&ラムさん=御主人様で、無理矢理ラプラブな要求をするもよし、
または逆の立場で、何故かSな主人ダーリンと、あたる君の意外な命令にどきどきするメイドラムさん、も萌えます。

逢夢さんの小説のラスト近くの「ラムの御主人様は俺だけ」という言葉に、独占欲が高じてSに走るダーリンが浮かびました(*^_^*) ←飛躍しすぎ

逢夢さんからは、
「最初は何かの罰ゲームであたる君がラムちゃんの執事になる、みたいなお話を書こうと思ったんですけど、罰ゲームに至るきっかけとなるものが思い付かなくて…
でも一度トライしてみたいです☆あたる君の執事姿…」

とのことです♪

逢夢さん、今の時代も元気に騒ぐうる星キャラたちを、ありがとうございました♪



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