『素直な気持ち』


鬼ごっこが終わった夜、俺は1人で2階の部屋にいた。
押入れは壊れているので、ラムとジャリテンはUFOへ帰っている。
何もする気が起きなかったので、俺は早々に寝る事にした。


体は疲労のピークに達していたはずなのだが、なぜか眠れない。
部屋の電気は消していたが、外から青白い光が差し込んでくる。
俺は窓を開けて夜空を眺めた。
「そうか、今日は満月か。」
月は頭上までのぼっていた。もう、真夜中のようだ。


窓の外を眺めながら、俺はここ2週間に起こった出来事を思い起こしていた。

・・・色々あったよな・・・

誘拐、救出、すれ違い、そして、鬼ごっこ。
俺とラムとの意地のぶつかり合いは、真っ赤な夕焼けの中で終わりを迎えた。
あの時、俺はラムの肩に顔を埋め、不覚にも涙を流してしまった。
ラムの前で、あんなに素直な自分の感情をさらけ出したのは、初めてじゃないだろうか?
結局、「好きだ。」とは言わずじまいだったが・・・
「言ってるも同然か・・・、ハハハッ」
我ながら自分の意地っ張りぶりに呆れて、思わず苦笑してしまった。

もちろん、「好きだ。」と言わなかった事に後悔はない。
俺にとってかけがえのない存在であるラムに、安易な言葉は絶対言いたくない。
いくら周りの連中に非難されようが、今後もこの考えは変わらないだろう。

・・・でも、たまには・・・な・・・

こんな俺でも、たまには素直に自分の気持ちを伝えたい事はある。
今日の俺は正にそうだった。


・・・色々考えていたら、急にラムの顔が見たくなった。
いつも俺のそばにいるラムがいなくて、寂しかったのかもしれない。

「ラムの顔が見たい?俺らしくもねえ!だいたい明日の朝になれば会えるではないか!
 今日の俺はどうかしてるぞ!!」
独り言で否定しようとすればする程、その思いは募っていく。

・・・ラム・・・

     *     *     *

「何してるっちゃ?」
「うわっ!!」
突然、目の前に逆さまなラムの顔が現れた。

「・・・ラ、ラム・・・、どうしたんだよ、こんな夜中に・・・」
考えていた内容が内容なだけに、動揺が隠せない。

「んー、何か眠れなくて・・・、それにダーリンと離れてるのは寂しかったっちゃ、ウフッv」
ラムは俺に抱きついてきた。

「こ、こらっ!!そんな恥ずかしいまねをするなっ!!」
何でラムは照れもせずに、こんな行動がとれるのだろうか?
本当、自分の気持ちに素直な奴だ。
今日の俺はそんなラムを羨ましく感じていた。

「何で?誰も見てないんだから、恥ずかしがる事ないっちゃよv」
ラムは全然離れようとしない。俺も言葉とは裏腹に抵抗しなかった。

「で、ダーリンは何してたっちゃ?」
抱きついたまま、ラムはマジマジと俺の顔を見つめている。
「か、考え事だよ、考え事!!」
「何をだっちゃ?」
神秘的な青い瞳が、まるで俺の心の中を見透かしているような気がした。

俺は思わず目線を逸らした。
「な、何だっていいだろ!?」
「あー!!もしかしてダーリン、うちの事考えてくれてたっちゃ!?」
ラムの顔には満面の笑みが浮かんでいる。

「うっ・・・」
いつもの俺なら、ここで軽口を叩いて済ます事ができただろう。
だが、図星を突かれた俺は、冷静に対処できなかった。
「ア、アホかっ!!誰がおまえの事なんかっ!!」
あわててラムから離れ、背を向けた。

そしてムキになった俺は、つい心にも無い事を言ってしまった。
「だいたいなあ、今日でおまえの事を忘れられると思ってサッパリしとったのに、
 結局戻ってきおってっ!!鬱陶しいんだよなっ!!」
・・・しまったっ!!言い過ぎたっ!!

我に返った俺は、怒り心頭であろうラムの方を恐る恐る振り返った。
ところが・・・

「・・・今の言葉・・・、本当だっちゃ?・・・・・・」
とても悲しそうに俺を見つめるラムの目には、みるみる涙が溢れてきた。
「えっ・・・!?」
「あの時・・・、鬼ごっこが終わった時・・・・・・、
 うちとダーリンの心は・・・、1つになったと思ってたのに・・・・・・(泣)」
ラムは俯き、肩を震わせて泣いている。白い太腿の上に涙がこぼれ落ちた。

予想外の反応に、俺の動揺はさらに激しくなった。
「・・・いや・・・その・・・」
ラムに泣かれる・・・・・・、俺にとって、これ程辛い事はない。

・・・どうする?・・・どうする??・・・どうする???
・・・本当の事を言うしかないのか・・・・・・?
・・・・・・・・・えーい!!もうヤケじゃ!!

「嘘に決まってんだろっ!!
 ・・・お、俺が・・・・・・、俺が考えていた事は・・・・・・、おまえの事だよっ!!」
「・・・えっ!?」
俺がこんな事を言うとは思ってなかったのだろう。
ラムはあっけにとられた顔で、こちらを見ている。

「・・・だから・・・・・・、お、おまえの顔が・・・、見たい・・・って・・・」
この時・・・、俺の顔はきっとトマトよりも赤くなっていたに違いない。

泣き止むどころか、ラムの目からは一層涙が溢れてきた。
「な、何で泣くんだよ!?」
「だって・・・、うち・・・、とっても・・・、幸せで・・・・・・(泣)」
どうやら嬉し泣きのようだ。ラムの涙は止まらなかった。

ったく、オーバーなんだよな・・・
あんな言葉だけで嬉し泣きする奴なんて・・・、そうはいねえぞ・・・

俺はそんなラムが堪らなく愛しく思えた。

「ほらっ、もう泣くな。」
俺はラムを腕の中に抱き寄せた。
「あっ・・・」
普段は平気な顔で俺にベタベタするくせに、この時のラムは妙にぎこちなかった。
恥ずかしいのか、俺の胸に顔を埋めている。

優しく頭を撫でると、ラムは恥ずかしそうに顔を上げた。
涙に濡れたラムの顔は、いつにも増して魅惑的に見える。

俺は指でラムの涙を拭き、頬を優しく撫でた。
見つめ合う2人の顔が徐々に近づいていく・・・

互いの唇が重なり合った。


口づけは徐々に激しさを増していく。
互いの唇が求め合い、舌が絡み合う・・・
これ程熱い口づけを交わしたのは、2人にとって初めての経験だった。

口づけが激しくなるにつれて、俺の頭にはある思いが浮かび上がってきた。

ラムと・・・、1つに・・・・・・

ラムを抱いていた右手が、思わずラムのふくよかな胸に伸びる。
その途端、ラムは『ビクッ』と反応し、体を強張らせた。

しまったっ!!

俺は反射的にラムから身を離し、後ずさった。
「ご、ごめん・・・・・・、その・・・おまえが魅力的だったから・・・って、何言ってんだ、俺は!?
 ・・・ハハハッ・・・き、今日の俺・・・、どうかしてんだよ・・・」
頭の中は真っ白になり、完全にパニック状態だった。

ラムは真っ赤になりながらも、そんな俺を愛しそうに見つめている。
・・・そしてゆっくり首を振った。
「・・・謝る事ないっちゃよ・・・・・、うちは・・・、身も心もダーリンに捧げてるっちゃ・・・v」
俺は何も答える事ができずに、その場で固まっていた。

ラムは俺を見つめたまま、ゆっくりと近づいてきた。
「ダーリンの気持ち・・・、嬉しいっちゃ・・・v」
「い、いや・・・、その・・・」
「・・・うちも・・・、ダーリンと・・・、同じ気持ちだっちゃ・・・v」
潤んだラムの瞳に、俺は吸い込まれるような感覚を覚えた。

心臓が早鐘のように鳴っている。全身から汗が噴き出してきた。
「・・・いいのか?・・・」
ラムは静かにうなずいた。

ここまで女に言わせといて、断るなどできるはずがない。
何よりも、自分自身の気持ちをこれ以上抑える事ができなかった。

「ラムっ!!」
「あっ!!・・・ダーリン・・・・・・」

青白い光の中、2つのシルエットは1つに重なった・・・
天空に浮かぶ満月のみが、その後の二人のなりゆきを静かに見守っていた。

     *     *     *

トクン、トクン、トクン、・・・・・・
触れ合う肌から、ラムの鼓動が伝わってくる。

俺はラムの頭を撫でていた。
「寒くないか?」
「うん・・・、平気・・・」
ラムは俺の胸に顔を寄せている。


俺は幸福感に満たされていた。
・・・が、徐々に後悔に似た気持ちが湧き上がってきた。

こんな事になっちまって・・・、俺達本当によかったのか?
・・・ラム・・・、おまえは・・・、本当にこれでよかったのかよ?

俺は何も話す事ができず、沈黙が続いた・・・

「・・・ダー・・・リン・・・」
「な、何だ?」
・・・・・・返事がない。
「ラム?」
「・・・zzz・・・」
いつの間にか、ラムは眠っていた。

とても安心しきった、幸せそうな寝顔だ。
その顔を見て、俺は少し安心できた。

「おやすみ・・・、ラム・・・」

     *     *     *

「あたる〜、起きなさいよ〜。」
遠くから母さんの声が聞こえてきた。
「ん・・・もう少し・・・zzz」
俺は布団を被ろうとした。
その瞬間・・・

「・・・ん?・・・うわっ!!」
自分が素っ裸である事に気づき、一気に目が覚めてしまった。
同時にゆうべの出来事が思い浮かんでくる。

俺は・・・・・・、ラムと・・・・・・

その途端、頭の方へ一気に血が上ってきた。顔が火照ってたまらない。

・・・なんちゅう事を・・・・・・
そ、そうだ!!ラムは!?

辺りを見回したが、ラムの姿は見えなかった。

「あれは・・・、夢?」
寝ぼけ気味の頭で必死に考えてると、母さんが2階へ上がって来る気配がした。
「い〜加減にしなさいよ〜!!あたる〜!!」

やばいっ!!

俺はあわてて制服に着替え始めた。
「もう起きてるよ〜!!」


居間に入ると朝飯が並んでいた。やはりラムの姿は見えない。
「母さん、ラムは?」
「今日はまだ見てないわよ。」

一番早起きの母さんが見てないって事は、ゆうべラムは来てないって事か?
すると、あれは夢!?
・・・でも、夢にしてはやけにリアルな・・・


「おっはよ〜!!遅くなってゴメンちゃ!!」
ジャリテンと鞄を抱えたラムが居間に入ってきた。
「ダーリン、おはよっv」
「お、おはよう・・・」
ラムと目を合わせると、反射的に顔が赤くなってしまう。
対照的にラムの素振りは全くいつも通りだった。

な、何でおまえはそんなに冷静でいられるんだ???

しばらく横目でラムを観察し続けたが、ラムの様子は普段と少しも変わらない。

おかしいな・・・?
・・・・・・ん?待てよ・・・・・・
あっ、そうか!!ゆうべは何もなかったんだ!!
あれは全て俺の夢だったんだな・・・、何だ・・・、そうか・・・(溜息)

俺は安心して、朝飯を食べ始めた。

とは言うものの、衝撃的な夢のせいで、どうしてもラムを意識してしまう。
食べながらチラチラとラムの方を見ると、ラムのにこやかな笑顔が目に入ってきた。

う〜む、やっぱりカワイイよな。
あれが夢だったなんて・・・、ちょっと残念かも・・・

     *     *     *

「行って来まーす!!」 「お父様、お母様、行って来まーす!!」
俺達は学校へ出かけた。いつも通りの登校風景のはずだった。
ところが・・・

2人きりになった途端、ラムは急にモジモジし始めた。
「おい、どうした?」
「・・・あのね・・・、ダーリン・・・・・・」
「だから何だよ?」
「あの・・・だから・・・その・・・、ゆうべの事・・・」
「えっ!?」
思わず固まってしまった俺の顔に、ラムの顔が近づいてくる。

「・・・うち・・・、一生忘れないっちゃ・・・v」 チュッv
ラムは真っ赤になって、先に学校へ行ってしまった。


「あ、あいつ・・・」
俺は呆然とラムの後ろ姿を見つめる事しかできなかった。

・・・ゆうべの事は夢じゃなかったのか・・・!?
あいつ・・・、家族にバレないよう気を使ってたのか・・・!?

俺は今までの関係が変わってしまう事がとても怖かった。

どうすりゃいい・・・?
・・・これから先・・・、俺はラムにどう接すりゃいいんだっ!?!?

しばらくその場で悩み続けた。
・・・・・・が、答えが見つかるはずもなかった。

ええい、ままよっ!!なるようにしかならんわいっ!!

俺は腹を決めて学校へと向かった。

     *     *     *

学校に着くと、グラウンドには記憶喪失装置が埋まったままだった。
今日は授業がない代わりに、全校生徒でこの装置の撤収作業だそうだ。
全く人使いの荒い学校だ。


よく見ると、記憶喪失装置の前でラムがたたずんでいる。

俺は気を落ち着かせ、平静を装って声をかけた。
「どうしたんだ、ラム?」
「あ・・・、ダーリン・・・」
なぜか、ラムの表情は暗い。さっきの態度はどこへいったのだろう?

・・・まさか・・・ゆうべの事を気にして・・・?

ラムの言葉を聞くのが怖くて、俺の顔は緊張で強張ってくる。

「・・・この装置・・・」
「へっ?」
「もしも、これが作動してたらと思うと・・・」
ラムは心底恐ろしそうに、首を振った。
「使うつもりはなかったっちゃよ・・・・・・、けど・・・、
 ダーリンやみんなに心配かけて本当にゴメンちゃ!!」

何だ・・・、そういう事か・・・・・・
う〜ん、だいぶ責任を感じておるようだな〜。もう終わった事なのによ・・・
よしっ!!ここは1つ・・・

俺は明るく言い放った。
「気にすんなって。他の奴はともかく、俺にこんなもの効くはずないだろ。」
「えっ?」
「俺がラムの事を忘れる訳が・・・、ハッ!?」

いかん、いかん!!

調子に乗って、危うく本音が出そうになった。
まだ、ゆうべの余韻が残っているようだ。

「何で、ダーリンには効かないっちゃ!?」
ラムは目をキラキラさせながら、返事を待っている。

「そ、それはだな・・・・・・、ふざけた顔をしてるからに決まっとるだろうが。」
「え〜!そうは聞こえなかったっちゃ!」
「空耳だ、空耳。」
「絶対違うっちゃ!」
「知らん、知らん。」
「ダーリン、お願いっ!!本当の事言って〜v」
「聞こえん、聞こえん。」
「んもおーー!!ダーリンったら!!」
うっ、ラムが不機嫌になってきた・・・・・・、こりゃ、逃げるが勝ちじゃ。

「じゃ、そういう事で・・・」
「待つっちゃ!!ダーリン!!」


息を切らせながら逃げているにも関わらず、俺は非常に気分が良かった。

よかった!!いつも通りじゃ!!
うん、これが俺達らしいよな。
ラムには悪いが、やっぱりこの関係が1番だっ!!

振り向くと必死に追いかけてくるラムの姿が見える。
ラムには聞こえないようにそっと呟いた。

「たまには素直になるからさ・・・、これからもよろしくな、ラム・・・」


 END




 これは『完結篇』が上映された年(多分)に書いたものを、少々書き直したものです。
 素直な『あたる』が書いてみたくて書き始めたんですが、なぜか『あたる』と『ラム』
の初体験にまで飛躍してしまいました。(^_^;)
 私はあの『鬼ごっこ』を経験した二人はさらに絆が深まり、二人の関係も一歩大人に近
づいたんではないか、と勝手に想像しています。だから、この話みたいな事があっても、
おかしくはないだろうと・・・(言い訳)
 原作やアニメのイメージをなるべく壊さないようにオチをつけようとしたので、話の筋
に少々(かなり?)無理があるかと思います。
(「だったら、最初からこんなテーマ書くなっ!!」と言う非難が聞こえてきそうだ・・・)
 らしくない『あたる』は、鬼ごっこで意地を張りすぎ、疲れたせいだとでも解釈しても
らえばと・・・(この件に関する非難が一番きそうだ・・・)
 これを読んで気分を害されましたら、申し訳ありません。m(_ _)m
                                by エッグマン


 とっっっっってもゲロ甘い作品をありがとうございました!
「鬼ごっこで意地を張り過ぎて疲れたという解釈」、私は気に入っていますv

                              管理人 諸星雪華


(戻る)