先攻エクスタシー


「待つっちゃダァーリン!浮気は許さないっちゃー!」
今日も凝りもせず諸星あたるという男は、ガールハントを繰り返してはラムの電撃リンチを受けていた。
「アホ!待つと言われて待つアホが何処におる!」
「うちという妻がありながら、次から次へとーー!!!」
これだけを見るととてつもなく異常なのだが、そんな常識はこの友引町では通じない。
非常識であるのだが、これが常識なのだ。
「ダーリン、何処行ったっちゃー!?」
「けけけ!ラムの奴…そう毎回毎回同じ手に引っかかると思うのか!さぁてガールハントじゃ♪ガールハントじゃ♪」
その後もまだラムの『あたる捜し』は続いていた。
「なぁ、ラムちゃん。もうそろそろあのアホに見切りつけて星へ帰らんか??あのアホ…いや…あたるは
ラムちゃんがこんに一途にあのアホの事思てるのに、あのアホ全然態度変わらんやんけ!ラムちゃん辛いばっかやないか!」
いつのまにか同行していたテンがラムの頭上をふわふわと飛びながら言った。
テンに悪気はないのだが、いつもいつも態度の変わらないあたるを追い続けるラムを見ると、辛くなってそう言ってしまう。
幼児だからラムの言う恋愛の辛さは分からないけれど、
それでもラムがあたるを想う気持ちは分かる。ラムはきっと惚れてしまったら、その人一筋なのだろう。
そんなラムの気持ちを知ってか知らずか、それともただの本当のアホなのかは、それこそテンには分からなかった。
だけど、今現在あたるがラムに彼女が想う以上の気持ちをラムに与えていない事は事実だった。
「テンちゃん、うち、そんな事ないっちゃよ」
ラムは努めて優しく言った。
「ラムちゃん…」
「そりゃあ、うちだってダーリンが浮気をやめてうちだけを見てくれてたらっていつも想ってるちゃ。」
「ほんならラムちゃ…」
「でもね」
何かを言おうとするテンの言葉をラムは言葉で封じた。
「でも…ダーリンはそれでもうちの事を一番に考えてくれてるってうちは信じてるっちゃ。
もし、もし、うちがダーリンを信じられなくなったら、それはダーリンがうちを信じれきれなかった事だから
・・・その時は・・・その時はうち・・・ダーリンを諦めるっちゃ・・・ううん、ダーリンを好きでいる資格がないっちゃ・・・」
ラムの瞳は今にも涙が零れそうだった。
けれど真っ直ぐだった。
ただ一筋にあたるを想う気持ち。
ただ一筋にあたるを信じる気持ち。
そしてただ一筋にあたるを愛する気持ち…。
テンはそれ以上何も言えなかった。
(それにしてもあのアホ…ラムちゃんにこんに思われとって、ようもああ毎日毎日飽きもせずガールハントに
行きよって!本間にアホやで!!!)
とだけ心の中であたるに少しだけ罵声を浴びせた…。




その頃、あたるは両の頬に紅葉を三つほど描き、ぶつぶつと独り言を言いながら友引町内を歩いていた。
『くそ…なぜこうなるのだ…』
両側の頬に描かれた跡が痛々しく、今日のあたるの経歴を物語る。
ふと時計をみると、もう既に午後6時を過ぎていた。冬の空は闇架かるのが早く
辺りはすっかり夜といった感じだ。
「しょーがねぇ。帰るか…」
そろそろ空腹感も感じてきたためか、あたるは早々と帰路についた。

「ただいまー。」
家の中からは美味しそうな匂いがする。母親が夕飯の支度の真っ最中だという事が否応もなく感じ取れた。
玄関で靴を脱いでいると、奥の台所から母親がひょっこりと顔を出した。
「あら、お帰りあたる。あんただったの」
「ラムは?」
「まだ帰ってませんよ」
「ふーん…」
(ラムの奴やけに遅いな)
「あたる、すぐご飯ですからね。早く着替えて手伝って頂戴」
「わかっとる!」
あたるは渋々答えた。
夕食の手伝いはラムがしていたが、今日はまだラムが帰ってきていない為に必然的に当番はあたるという事になる。
断ろうもんなら今日の夕食には当然ありつけない。諸星家にとって『絶対』は母である。

ひととおり、夕食も終えて片付けも済んだ。時刻は午後8時を回ったところだった。誰もが考えていた事を口に出したのは
あたるの父であった。
「そういえば・・・今日はラムちゃんの姿を見てないな?」
「あら。何か静かだと思ったらそうだったのね。あたる。ラムちゃんは?」
「知らん!俺はフロに入って寝るからな!」
「まぁ・・・親に向ってなんて口の聞き方かしら!!・・・・産むんじゃなかった・・・」
そう口では言っているものの、普段と違う息子の態度に母は少し不安を感じていた。
(くそ、ラムの奴こんな時間まで何処におるんだ??)


10時を過ぎてもラムは帰ってこなかった。
既に苛立ちをとおり越して「心配」という形であたるの心は支配されていた。
数人の男たちに囲まれているラムの姿・・・そんなマイナス思考の考えがあたるの心をよぎる。
そんな不安と苛立ちがピークを迎えた時、窓ガラスがコンコンと音をたてた。
冬の夜を物語るかのようにその窓ガラスの一部にうっすらと白いもやがかかる。
「ダーリン、ダーリン」
窓の外から聞える声は・・・。あたるは、急いで窓に近寄りその時に限ってかけていた鍵を外し、窓を開けた。
「珍しいっちゃー!ダーリンが鍵をかけるなんて!今日はトクベツに冷えるっちゃ!うちでも寒いくらいだから・・・ダーリン?」
自分が帰って来てから、一言も話さないあたるを変に思ったラムはふとあたるの方を見た。
そのあたるは、今まで見たこともない怒りの表情でラムを見ていた。真剣な――――怒り。
「ダ、ダーリン??何かあったっちゃ??」
「・・・何処に言っていた?」
「・・・何々?うちの事心配してくれてるのけ!?嬉しいっちゃー!」
「茶化すな!!!」
ラムは茶化したつもりなどなかったのだが、普段とは違うあたるの物言いに一瞬ドキッとした。
けれど、すぐに真剣に怒っている時のあたるの顔だと悟ると直ぐに謝った。
「ご、ごめんちゃ。ダーリン。うち・・・ダーリンとデートしたくて・・・・普通の・・・色んなカップルのデートの仕方見て研究してたっちゃ・・・。
あ、でもその甲斐あって、うち、普通の子みたいにちゃんとできるっちゃ!ね、だからダーリン来週の日曜日デートして欲しいっちゃ!」
これがラムの素直な気持ちだった。そんな事はあたるも分かっていた。だがー・・・
「断る」
予想だにしなかったあたるの言葉。いつも断られているけれど、真剣な瞳で断られたのは初めてだった。
「・・・どして?どしてダーリン?うちの事そんなに嫌いだっちゃ??そんなに一緒に居たくないっちゃ?教えて、教えてダーリン・・・
うちは・・・うちはどうしたらダーリンに好きになってもらえるっちゃ・・・!?ダーリンが浮気しても他の女の子とデートしても、うち怒らないから・・・
だから、だからお願いだっちゃ、ダーリン・・・。うちの事・・・少しでいいから好きになって欲しいっちゃ。お願い・・・お願いダーリン、ダーリン・・・。
うちはダーリン以外の人は好きになれないっちゃ・・・。片隅でいいから傍に置いて欲しいっちゃ・・・ダーリン・・・」
ラムの目からはとめどなく涙が溢れる。あたるはその姿をずっと見つめているだけだった。
「ダーリン・・・お願いだっちゃ、何か、何か言ってダーリン。うちを・・・うちを捨てないで、ダーリン、ダーリン・・・」
ラムは咳を切った子供のように『ダーリン、ダーリン』と泣き呼び続ける。
けれど、あたるは答えなかった。

それから1時間後、ラムはようやく泣き止んだ。その目は紅く腫上がって見るからにも痛々しそうな姿だった。
「ラム」
不意にあたるがラムの名前を呼んだ。それが、凄く嬉しくてまたラムの目から涙が落ちそうになった。それに続く言葉が例え罵声にも似た言葉でも
自分の名前を呼んでもらえただけで、また声が聞けただけで、それだけでラムがあたるを思う気持ちは益々高ぶるのだった。
「な、何だ・・・っちゃ、ダーリン・・・」
ラムはまだ涙で声が上ずっていて旨く声が出せないでいた。
「俺はお前を捨てるつもりなどない。別れるつもりもない。」
「え・・・?ほ、本当だっちゃ??ダーリン?」
信じられないという瞳であたるを見る。
「嘘だと言って欲しいのか?お前は」
あたるは呆れ顔で、それでもその表情は優しく・・・・ラムを見る。
「い、嫌だっちゃ!!嫌だっちゃ!!!ダーリンと別れるくらいならうちは死んだ方がマシだっちゃ!」
今にも涙があふれそうな瞳で、慌てて首を横に振る。その仕草が堪らなく愛しく、可愛く思えてあたるはついラムの右手を掴んで体を自分の方へ
引き寄せてしまった。突然の出来事にラムは訳も分からずただその腕の中にある暖かさに包まれた。
不意の出来事で自分でも何をしたのか分からないのは、あたるも同じだった。そして同じ様にその掴んだラムの温もりに包まれた。
(お、俺は一体何をしとるんだ???)
「うちの事・・・許してくれるっちゃ??ダーリン・・・?」
腕の中のラムが、少し怯えた子犬のような瞳であたるを見上げた。
「・・・・たく、お前は・・・自分で言うのもなんだが、俺なんかの一体何処がいいんだ?お前が其処まで言うほどの男か、俺が・・・」
そんな瞳で見つめられると、自分の不甲斐なさが改めて身に沁みる。
「男だっちゃ!うちにはもったいないくらいの素敵な人だっちゃ、ダーリンは!ダーリンは本当はとっても優しいっちゃ。うちの事命がけで
守ってくれたり、お見合いの時は、宇宙まで来てくれたり・・・。ダーリンは、本当にうちにはもったいないくらいの人だっちゃ。
でも・・・誰にも渡したくないっちゃ・・・。本当はダーリンは…ダーリンはうちの…うちだけの・・・ダーリンになって欲しいっちゃ。うちは我侭なんだっちゃ・・・
でもそれで、ダーリンに捨てられるのだったら、うちは我慢するっちゃ・・・。それでもうちはダーリンの傍に居たいっちゃ・・・」
そこまで言うとラムは自分で言ってて辛かったのか、また子供のように泣き出した。
「――――ったく!」
一瞬の出来事。

KISS・・・・★
それは唇に触れるか触れないかぐらいのキス。
ほんの甘いくちづけ。

けれど・・・。
ラムにとっては・・・
「だ、ダーリン?だ、ダーリンがキス・・・してくれたっちゃ??」
ラムは、潤んだ瞳であたるの目を見つめる。
その顔は、嬉しさと恥ずかしさが混同したような、それでいて柔らかな、ラムらしい素直な表情であたるの顔を包むように見ている。
「そんなもんキスのうちに入るか!!」
そう言うあたるの耳が真っ赤になっているのはぼんやりとした月明かりでは分からなかったが、早く脈打つ鼓動がラムの鼓動と重なる。
「嬉しいっちゃ・・・嬉しいっちゃ…。今まで生きてきた中で一番嬉しいっちゃ・・・」
綺麗な白い肌を紅く染めながらラムはそっとつぶやいた。
「大袈裟な。」
照れてプイッと横を向くが、あたるの口元は緩んでいた。
そんな彼を見て、ラムはそっとあたるに話しかけた。
「・・・・ダーリン、ごめんちゃ」
「何がだ?」
「今日…怒ってたっちゃ。ダーリン」
話しが少し振り出しに戻ってしまったが、この際だから言ってしまおうか・・・・。そんな風にあたるは思った。
「お前なぁ〜!俺が居ない時は7時までには帰ってこい!暗くなるだろーが!!!
いくら電撃が使えるからといったってなぁ、お前は女なんだからモノには限度ってもんが・・・・なんたらかんたら」

――――カエッテコイ・・・・――――

その言葉が、一言がただただ、ラムの心に暖かくやんわりと奥底に沁みこむ。嬉しい・・・。
「・・・・分かったっちゃ!!分かったっちゃ!!!ダーリンダーリン!!!」
がばっと抱きつくラムにドキドキしながらも、あたるは、いつもの調子で答えた。
「ええい!べたべたくっつくな!!!うっとおしい!!」
「なんでだっちゃ!さっきはキスしてくれたっちゃー!!!」
「それはそれ!これはこれ!俺はべたべたされるのが嫌いなの!!」
「んもう、ダーリンたら!!」
「分かったら、さっさと寝ろ!明日も学校あるんだぞ、俺は眠い」
ふわぁ、と大きなあくびをひとつすると、あたるは床に就いた。
「うちもここで寝るっちゃ!!」
「アホか!UFOに戻って寝なさい!」
「んもう、ダーリンたら!・・・でも今日はテンちゃんがいるからUFOに戻るっちゃ!おやすみダーリンvv」
「ああ、お休み、ラム」
窓を開けるとラムはUFOに戻って行った。

――――テンちゃん。やっぱりうちはダーリンが宇宙で1番好きだっちゃ!!!


翌朝―

「あたるー!起きなさいー!遅刻するわよー!」
1階からあたるを起こす母の声がする。
あたるは丁度制服のシャツに手をかけている所だった。そのまま服を着替え終わると自分の部屋から1階へ降りる階段途中でラムがひょっこりと顔を出す。
「ダーリーン!おはようだっちゃ」
「ええい!触るな、くっつくな!うっとおしい!あ、しのぶ〜〜〜ッvvv」
「あ、ダーリン!!!!!浮気は許さないっちゃー!」
BABABABABABABABABABABABABA・・・・・!
「うぎゃああああああああああああ!!!!」
今日もあたるのけたたましい叫ぶ声が母の耳に届く。すると同時にいつもの台詞が母の口から言霊となって現れる。
「まったく・・・本当に騒がしい子・・・産まなきゃ良かった・・・」
朝からどたばたと忙しく家を出る息子の姿を見送ると改めて『はぁっ』と溜息をつく。
だがそこには、不安の色が消えた母の顔があった。


あたるたちが学校に着くと、既に9時を過ぎていた。とっくに授業は始まっている時間だ。
さすがにこれくらいの時間になると、あたると同じ様な万年遅刻のメガネたちですら教室に入っている。
「ダーリン!もう授業は始まってるっちゃよ、急ぐっちゃ!」
「わかっとる!だいたい元はといえばだなぁ・・・お前が朝っぱらから電撃で俺の身体を麻痺させるからこんな事になったんだろうが!」
「何言ってるっちゃ!ダーリンの浮気が悪いっちゃ!」
ラムは負けじと踵を返す。そのやりとりが教室の中にも聞えたのか、メガネとその一派がもの凄い勢いで廊下を走ってこちらへやってきた。
「ラムすゎわわわ〜〜〜〜ん!!!!」
「おお〜!メガネ〜!!」
あたるが軽く挨拶を交そうとするも、メガネたちはそんな事はお構いなしに一目散に後方のラムの方へと近寄る。
そして、ラムの鞄を持ったり、ラムの背中を押したり、ラムの気を惹こうと何でもやるのだ。
「あ、ラムちゃん。鞄重くない?僕持つよ〜」
とチビが言えば
「何を言う!ラムさんの鞄はこの私、メガネがお持ちする!!ああ!その可憐なそのラムさんの白い手から
渡される鞄はとても気高く!誇り高いものであろう!そして私は誓う〜〜!!例え何人たりともこの役を他のものには譲らず!一生をかけてラムさんのぉ!可憐なるラムさんの 鞄持ちという天職を必ずや全うするであろう!」
「鞄ひとつで何言ってるっちゃ!それにうちはそんなに高校生をするつもりはないっちゃよ」
とメガネの熱弁を突っ込み雑じりでラムが絶ち切る。
毎日そんな感じで友引高校での学校生活の朝が始まるのだ。
そしてその様子を何時も冷めた目で見つめるものもいれば、合戦に参加するものもいる。
いつも暖かな空気がラムを包む。

―うち、地球にこれて・・・ダーリンに逢えてメガネさんや終太郎たちに出会えて良かったっちゃ!
だから心配しないで・・・−うちは毎日とってもとっても世界で・・・ううん、宇宙で一番しあわせなんだっちゃ!!ね、ダーリンv―

知るか、というあたるの声が聞えたような気がしたが、ラムは誰に話す訳でもなく空を見上げると
そこには朝もやが晴れて澄んだ冬の空がそっと顔を覗かせていた。

*****FIN*****


++++++++ATOGAKI++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

ごめんなさい、ごめんなさい!こんなので!
タイトル意味分からないし。
椎名林檎ちゃんから頂いたんですが・・・。
一応、物書きだったハズなのですが・・・・。
ラムちゃんのかわゆさvとかダーリンのカッコよさとか皆無に等しくて(汗)
駄文のくせに今はこれが清一杯です(汗)
素晴らしい小説を書かれる皆様を本当に尊敬します!
精進致しますです。ハイ。

2003.1.X 魔那 拝
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おおぅ!魔那さんの書かれるラムちゃんは、とっても健気ですーーーっ(>_<)
「がんばれラムちゃん!」とつい応援してしまいますよ。
あぁラムちゃんにこんな思いをさせるなんて…ダーリンたら罪なオトコ////
ここまで1人のオンナを夢中にさせるとは〜〜////
その一方で、鞄持ちに命を燃やす阿呆な(失礼(^_^;))メガネに対するラムちゃんの
さり気ない一言に笑わせて頂きました★
ゲロ甘い小説をありがとうございました〜♪



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