サバイバル☆ナイト!
高校生活で最大のイベントと言ってもいいだろう。 俺たちは修学旅行の真っ最中である。 「くぉらー!お前らまだ騒いどんのかーーー!早く寝んかーー!」 温泉が怒鳴りながら部屋を巡回している。 温泉の声が近づいてきたので、あわてて寝たフリをする面堂、 俺たちの班は要注意の2年4組の中でも、特S級として警戒されている。 …まあ仕方ないかもしれない。俺以外は問題児ばかりだからな。 「行ったか?」 と、メガネが視線をチビに送りながら囁く。 他の教師はともかく、温泉は俺たちを知り尽くしているだけに多少は手強い。 この班分けも、要注意人物をひとまとめにして監視しやすくするとかで、 チビがドアに耳をつけて外の様子を伺っている。 皆、息をすることも止めて注目している………数秒後、チビは両手で円を作った。 「よーし、しばらくは奴も見回りには来んだろ〜。パーマッ!例のものを」 班長である俺を差し置いて、なぜかメガネが場を仕切っている。 俺と並んで、それを苦々しく眺めていた面堂がメガネにつっかかった。 「おいっ!何をたくらんどる?」 パーマが大きなスポーツバッグから取り出したのはウイスキーのビンであった。 「まさかここで酒盛りをするつもりか…? 面堂は愛刀を両手で構え、俺たちに見せびらかすように牽制する。 「だから今夜までじっと耐えてきたんじゃないか…なぁ、諸星班長?」 「そーいうこと、面堂、明日は最終日で帰るだけだ…問題を起こそうと起こすまいと 「えーい妙な理屈を並びたておって… 「多数決の結果じゃ!俺って人望あるからなっ」 面堂が悔しがるように、わざと憎たらしく言った。 班長は多数決で決めたのだが、面堂が自分で一票、俺はメガネに一票、 「な〜メガネ!」 「ばかが…お前のような奴に人望があってたま…あ、いやいや諸星君、 「そーだろ、かっかっかっ…!」 実はメガネ達の本当の理由は、問題が起きた時には責任を 「さ、早速はじめようぜ」 俺の音頭に、皆コップやらツマミやら準備をする。 諦めて腰を下ろす面堂を含めて俺たちは乾杯をした。 「いや〜しかしたまには男同士の友情を深め合うのも悪くないなぁ」 「全くだ」 「ぎゃはははははははははははははっ!」 こいつら、だいぶ酒が回ってきたようだ。 しかも面堂までがメガネ達と楽しそうに酌み交わしている。 人間は酒が入ると普段押さえている理性のタガが外れて本心をさらけ出すというが…? 四六時中いがみ合っている姿しか見ていない者にとっては信じられない光景だろう。 面堂も含め、俺たちは決して仲が悪いわけではない。 あいつらが親衛隊を組織するようになってからは敵対することが多くなったが…。 俺の頭にふとラムのことがよぎった。 「ど〜した?あたる♪」 「い、いやっ何でもない」 いくら酒の席とはいえ、こいつらに“ラムのことを考えていた”とは言えない。 せっかく盛り上がってる最中に“彼女”のことを考えるのはなんか失礼な気がした。 そんな俺の頭の中などおかまいなしに場は進んでいく、おっと取り残されちゃかなわん。 「しかし1組の佐々木と優華も長げ〜よなぁ」 「中2の時からだから…もう3年か?」 げ…女関係の話か? ラムのことは今は考えないようにした俺の努力(?)が水の泡である。 なごやかな雰囲気と程よい酔い加減に、普段なら絶対に言わない言葉が俺の口から漏れた。 「俺もラムがひっついてくるようになって結構長いな〜、 場の空気が一変、全員が鋭い眼光を向ける。 ラムのことを話題に出したことを後悔するが、既に手遅れである。 おもむろにメガネが俺の両肩を掴んで覗き込む……い、痛い…。 「あたる〜ちょっと確認したいことがあるのだが?」 「な、何だよ…」 「皆も聞きたいよな」 一同うなづく。 「だから何だよ!」 「あーなんだ…俺たちは親友だよな、真の友情をお互いが感じる為には嘘偽りは御法度だ、 いやな予感が走る… 「貴様…ラムさんと…どこ…………くっ、い、言えん…お、俺にはこれ以上は…………… メガネはグラスに入っていたウイスキーを一気に飲みほし、そのまま倒れた。 「なんだっちゅうーんじゃ!!」 「メガネ…後は俺にまかせてくれ」 次はパーマだ(汗) 「単刀直入に聞こう………おまえ、ラムさんとどこまで進んだ?」 「はっ?」 頬に冷たいものが触れる。こ、これは面堂の日本刀…。 「意味は、もちろんわかってるよな」 「ま〜待て面堂、物騒なブツは必要ない…俺たちは何もお前を責めてる訳ではない… もう復活したメガネが子供を諭すような口調で話す。 「そりゃまぁ…一般的に…」 「い、い、い、一般的!!何をどう比較して一般的なんだ! こ、怖い…誰か助けてくれーー! 皆がしつこく問い詰めるのには訳がある。 先月、たまたま俺とラムが二人で薬局に買い物に行ったのを偶然クラスの女子に見られ、 「ラムが妊娠検査薬を買ったみたいよ」 と大騒ぎになったのだ。 実際は、母さんに頼まれてトイレットペーパーと目薬を買っただけで、 異様な迫力に恐れおののく俺にパーマが耳打ちする。 「おい、ストレートに言ってやれ」 「えっ!?いやしかし…」 「いーから!」 何でこんなことにっ?完璧に追い詰められた俺に残された策は………無い! えーーーいままよっ! 「………まぁ…そりゃもちろん…」 ドガッ!バンッ!ドスッ! 最後まで言い切らないうちに、俺は枕の集中砲火を浴びた。 「ばかっ!お前ら最後まで聞けーーーぐわっっ!」 くそっ、俺だけ被害にあってたまるか! 「パーマッ、お前もこの間何か言ってたよなっ、彼女を部屋に呼んだとかっ!」 「バ、バカッ、あたるっ!」 「おのれパーマッ!親衛隊にあるまじき行為、許すわけにはいかーーーーん!」 今度はパーマが集中攻撃に。 この戦いは数十分続いた…。 「あー疲れた」 「しかし、お前ら最後まで聞けよ… 面堂とメガネ、パーマが目を丸くする。 「え?それじゃぁ…」 「そーだよ、まったくおかげでいい迷惑じゃ!」 「そーかそーかそれは良かった。 面堂がニヤケ面で俺を覗き込む。 …電撃とかそーいう問題じゃないんだよな、 と思ったが、心の中で叫ぶだけにした。 「ん…カクガリとチビは?」 部屋を見渡すと、二人とも壁にもたれかかり、真っ赤な顔をしてイビキをかいていた。 「無防備な寝顔だな〜」 面堂の一言に俺とメガネとパーマはにやりとする。 …数分後、二人の顔は油性マジックにより変身を遂げていた。 声を殺して大笑いする俺たち。 しかし…笑っていられる事態ではないことにすぐに気づいた。 そう、これは次の己の姿かもしれないのだ…。 俺が一瞬真剣な表情になったのを見て、面堂とパーマが互いを見合う。 こいつらも気づいたようだ…。 メガネは?………変化無し。自動的に次の標的は決まった。 「なーメガネ、我が施設軍隊の戦力について分析してくれないか〜」 面堂の奴上手いな…。よーーーし俺もっ! 「なんだ〜もう空っぽじゃないか!まーまー飲んで飲んで♪」 「気味が悪いな…何だよ急に…」 と言いながらもこの手の話題に弱いメガネ…。 …数十分後、3人目の被害者が誕生した。 またも大笑いする俺たち三人。 しかし、この展開は………危険だ。 《酔って眠り込む》→《パンダ面決定》という図式が出来上がってしまった今、 「どーも緊迫感のある酒だなぁ」 「いやーまったく」 「ははははははっ」 空々しい笑い声が、余計に緊張感を煽る。 こう着状態に陥ってしまったこの事態を打開するには…? 互いを警戒しながら酒を飲む三人。先ほどまでの和やかな雰囲気は何処へ?である。 そんな空気に耐えられなくなったのか、面堂が席を立つ。 「ちょっとトイレに…」 「おい!逃げる気か!」 パーマが慌てて止めようとするが、俺はそんなパーマの腕を軽く引っっぱる。 「大丈夫だ…酒臭い息を撒き散らして逃げる場所なんかあるか…」 「そ、そうか…そりゃそうだな」 バタンッ! 2、3歩進んだところで面堂はうつ伏せに倒れた。どうやら、酒が限界を超えていたらしい。 「なんだ…面堂もけっこう効いてたんだな」 話し振りと同様にパーマの表情にはまだ余裕がある、まだまだいけそうだ。 一般的には、男は酒に強い方がいいような風潮がある。 「よしっ、こんなもんだろ!」 ほとんどパーマ製作の面堂へのイタズラ書きはまさに傑作であった。 「ぎゃはははははははははっ」 俺とパーマ以外が沈没したことで、二人のテンションも若干落ち着いてきた。 「…酒、まだ残ってンの?」 「ん?あとこれだけだ」 パーマが指差した先には、缶ビールが二つ転がっていた。 「よし、あれ片付けて寝るか…」 冷やしておいたわけではないので、かなりぬるくなったビールははっきり言ってまずい。 それでも二人は全て飲みきることが使命とばかりに流し込む。 「なぁ、あたる…」 「何だよ」 パーマの改まった口調に、ちょっと驚く。 「お前は幸せ者だよな…」 ウイスキーやらビールやらに侵された頭だったが、 「あんないい娘、いないぞ………もっとやさしくしてよれよ…」 そんなこと言われなくてもわかっとる。 言いかけた言葉を飲み込んだ。 自分なりに優しくしてるつもりだったが、周りからはやはりそうは見えないらしい。 さっきのセリフも彼女のいる奴でなければ出てこないだろう。 最後に残ったのがパーマじゃなかったらどんな話をしていたんだろうか…? こいつら、いい奴らだよな…。 カタンと音がしたので見ると、パーマの手から滑り落ちた缶が床の上を転がって、 「…それとこれとは話が別じゃ」 俺はマジックを手に取った。 次の日。 「あたるーーーーてめーーー裏切り者!」 「諸星っ、そこへなおれーーーっ!!」 「面堂!あれはほとんどパーマが…」 「問答無用!」 油性マジックを消そうとしたものの無駄な努力に終わった奴らが俺を追いかける。 ラムやしのぶ、竜ちゃん他クラス全員の大爆笑の中、 あーおもしろかった。できることならもう一回来たいもんだ。 …こいつらと。 《エピローグ》 …ん…? 頭がぼんやりする。 あ…そうか、俺、昼寝してたのか…。 起き上がろうとすると、薄手のタオルがするっと体から落ちた。 俺は落ちたタオルを拾い上げ、首から上を左右にゆっくりと振った。 「んーちょっと寝すぎたか」 視線を移すとラムの後姿が目に入った。なにやら床に座り込んで本を読んでいるらしい。 肩が小刻みに動き、くすくすと笑い声も聞こえる。 俺はラムのそんな姿にちょっと興味が沸き、目を擦りながら近づく。 「何やっとんじゃ?」 「あ、ダーリン!やっと起きたっちゃ?ねーこれ見て見て!」 ラムが指差したのは、修学旅行の記念写真であった。 そこには、懐かしい顔があの時のまま、寸分の狂い無く残されていた。 ここぞとばかりにクラスの女に愛想を振り撒く面堂のニヤケ面、 「おーおー、懐かしいっ!」 「ダーリンったらあの時も女の子にちょっかいばかりかけてたっちゃ!」 「そーだったかなぁ〜」 この写真の出来事からもう5年が過ぎていた。 時の流れは、ひとつひとつの思い出に鍵をかけていく。 それを開けることができる方法のひとつが、写真なのかもしれない。 「なあ、ラム」 「何だっちゃ?」 「そこに立てよ」 アルバムを覗き込んでいた顔を上げ、きょとんと不思議そうな表情で俺を見る。 「写真…撮ってやるよ」 終わり
とーますさんが私のリクエストを聞いて書いて下さいました! 私からのリクエストは「修学旅行の宿の男子部屋での出来事」でした! 自分でお話を書いているとき、よく悩むんです。 「現実にこんなこと言う(する)男の子っているのか…??」って。 普通の男子高校生のあたる君が、女の子抜きで(←重要)、友達とどんな会話をして どんな行動を取るのか知りたかったので、このシチュエーションをお願いしました。 いやぁ、大満足です〜(*^_^*) いきなり酒盛りっ?!とか。 寝てる人に落書きっとか! 彼女の話とか(悦)v 何かこう、青春っ感じですよーーーーっ(>_<)/ 大満足です☆ミ とーますさん、ありがとうございました! 戻る |