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担任のカクガリ先生が、その巨体を揺らしながら教室の戸を開けて入ってきた。
後ろについて入ってくる美少女が1人。
「えー、転校生を紹介する。さ、君。」
転校生? 突然のニュースに教室内がざわめく。

名前を呼ばれ、小さく手招きをされて、恥かしそうに一歩進み出る少女。
腰に届きそうなほどに長い緑のストレートヘア。
豊かな髪は、丸く黄色い髪止めで左右二か所にとめられている。
快活そうな、ややツリ目の大きな瞳。ピンク色の頬と唇。
深緑色のブレザーの制服に包まれた身体は、そのスタイルの良さが際立って見えた。
「初めまして。」
元気な声と共にぺこりとおじぎをすると、襟元で結ばれた幅広の赤いリボンがふわっと揺れる。
「うち、ラムだっちゃ。よろしくお願いしますっちゃ。」
美少女・ラムの挨拶を合図に、大きな拍手と歓声が上がった。
「かわいいーーー!」「ぼ、僕、チビってみんなに呼ばれてるんだ!よろしく!」
「どこの高校から来たの?」「仲良くしましょうね!」
新しいクラスメイトの歓迎を受けて、担任に教えられた席へとラムがゆっくり歩いて行く。
すると突然1人の男子生徒が立ち上がった。
「初めまして。僕はこのクラスの副委員長、面堂終太郎です。分からないことがあったら
何でも聞いてください。」
そう告げて右手をすっと差し出す。にっこりと微笑んだ口元からは白い歯が光を反射して輝いた。
ぴしっと糊のきいていそうな白いワイシャツを包むのは、女子と同色の深緑色のブレザー。
赤いリボンの替わりに、赤いネクタイが一分の隙も無く結ばれている。
「あ、ありがとうだっちゃ。」
差し出された彼の右手をどうしたものかと戸惑ってしまう。
なぜなら、教室中の女子生徒たちのため息混じりの声がラムの耳に届いたから。
「面堂さん、今日も素敵…。」「さすが面堂さんだわ。」「私も転校生になりたーい。」…。
もしこの人の右手を握り返したら、うちはどうなってしまうのだろう。
そんなことを考えていると、
「さっさとどかんかい、このタコ!彼女が困っているではないか!」
どかっっっ! 
面堂の背中を足で蹴り倒し、その後ろから別の男子生徒が姿を現す。
突然の出現にラムは目を丸くした。
さっきの男の子と同じ制服のはずなのに、全く違うように見えた。
ネクタイは窮屈なのかかなり緩く結ばれており、ワイシャツのボタンも上の1、2個はだらしなく外されている。
ワイシャツの裾はズボンに入れず、ブレザーの上着の下から白い布が覗いていた。
「いやぁ〜、初めまして。僕が委員長の諸星あたる!な、仲良く、く…しようね、ラ、ラ、ラ、ラ…ムちゃ……」

「カットーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッ!!!!!!!!」
メガネの怒りに満ちた声が教室中にこだました。
ぎくっと動きの止まるあたる。
床に蹴り倒されていた面堂がむくりと起き上がる。
「あーたーるーぅ…」
ずんずんとあたるに近づいてくるメガネに、
「いやぁスマンスマン。つい慣れない言い回しに舌が回らなくて…にゃはははははは。」
頭をバリバリかいて一応あたるが詫びを入れた。
「ラムさんが素晴らしい演技をしているとゆ〜のに、貴様は!真剣さが足りん!
いいかぁ!映画作りとはそもそも一人一人の血と汗となみ…あぎゃあ!」
あたるの真ん前に突き出ているメガネの首をゴキッと折って、しのぶがあたるの前に立った。
「もぉ、あたる君、ちゃんとやってよぉ!これで3回目じゃないのよ。」
「いて、いてっ!」
手にしたメガホンであたるの頭をポンポン叩く。
「そーは言うがなぁ、しのぶ。だったらセリフを替えてくれ。ラムに「ちゃん」づけなんか気持ち悪くて言えん。」
「だ、め、よ。これは演技なんだから、ちゃんとやってくれなきゃ。」
もう一回ポコン、とメガホンで叩いた。
「さ、もう一度同じところ行くわよーーー!」
しのぶ監督の元気な声に、全員がわらわらと自分の位置についた。


「ふぅ、やれやれ…。」
誰の姿も見えない運動場の隅の隅、緑の芝生の上にあたるはごろんと寝転がった。
「全くたまったもんじゃないわい。」
両手を枕にして空を見上げると、青い空に白い雲がぽっかりと浮かんで穏やかに流れている。
雲の隙間から洩れてくる日差しの温かさにそっと目を閉じた。
撮影の合間の休憩時間。
他の生徒は教室でわいわいやっていたが、あたるはそれに混ざる気になれなかった。
「“ラムちゃん”、って…アホらし…。」
5回目の撮り直しにしてようやく言えた一言。
「演技、演技。この撮影が終わったら女の子たちとのデートが…ウヒヒヒヒ…」
「ヤラシー笑い方してるっちゃ。」
「いっ!?」
急に降ってわいた聞きなれた声にぱちっと目を開ける。
寝転がる自分の右側に、ブレザー姿のラムがちょこんと座っていた。
「な、何だ突然!」
怒られるかと思って焦るあたる。
だが、ラムの顔は笑っていた。
「ダーリンがいないから探しに来たっちゃ。」
「もう休憩終わりか?」
「ううん、まだ。」
「じゃあ探さんでもいいだろーが。」
「ダーリンの側に居たいから、うち、探してここに来たんだっちゃよ。」
くすくす笑うラム。
「…ふ、ん。」
あたるはぷいっと横を向いた。
いつものラムなのに、制服や角の様子が違うだけなのに。
少し速くなった胸の鼓動が自分でも嫌で、また目を閉じて寝るフリをした。
ラムは何も言わずにただあたるの横に座って、ずっとその寝顔を眺めていた。


何とか本日の撮影が終了した。
「じゃあ、続きはまた明日にしましょう。」
監督の声にみんなが帰り支度を始める。
外はうっすらオレンジ色になりかけていた。
「どんな感じ?」
カメラを片付けているパーマに、しのぶが尋ねる。
「んーまぁいいんじゃないの?やっぱりラムさんはカメラ映えするね。」
確かにそうだ。
ハロゲンランプの光に包まれて、ラムはきらきらと輝いて見えた。
髪や肌の質が地球人と違うから? ううん、そうじゃない。
絶対それだけじゃないと、しのぶは感じていた。
「明日もよろしくね。」
「おう!」
みんなが帰るのを見送ってから、
「さて、あたしも帰りますか。」
と、しのぶが鞄を手に持った。
「しのぶさん、まだいらしたんですか?」
面堂が教室の後ろの戸から姿を現した。
衣装は着替えたので、いつもの白い学生服姿である。
「面堂さんこそ、どうしたの?」
「いやぁお恥ずかしい、ノートを机の中に置き忘れたようで、途中で戻ってきたんです。」
苦笑いをしながら、自分の机の中から緑の表紙の大学ノートを取り出した。
「しのぶさん、よかったらお家までお送りしましょう。」
「え、そんな悪いわ。」
「ちっとも悪くなんかありませんよ。遠慮なさらずに、さ。」
「じゃあ、お言葉に甘えて…。」
面堂のありがたい申し出に従って、隣に並んで歩き出した。

黒塗りの高級車のシートに、2人は疲れた体を沈めた。
「初めての映画監督はいかがですか、しのぶさん。」
「監督って言っても、結局みんなにやってもらってるって感じよ。」
ふふふ、としのぶが恥かしそうに笑った。
「面堂さんには役の面でも資金の面でもご迷惑かけてしまうわね。ごめんなさい。」
ぺこりと頭を下げる。
「いや、構いませんよ。しのぶさんの初監督作品ですからね。」
そう言いつつも、面堂は思い出したように背中をさすった。
「まだ背中は痛むの?」
「いえ、大丈夫です。」
体の痛みよりも心の怒りの方がボルテージが高かったであろう。
面堂は苦虫を潰したような顔をした。
「ところでしのぶさん。」
「はい?」
「なぜ、貴方は今回のような内容を映画にしたいと思ったのですか?」
「え…?」
「つまりー…、いや、気を悪くしないで頂きたいのですが。
しのぶさんはあの諸星と幼馴染、その上更に親しくされていたと、他の者から聞いたのですが…。」
「あ、あぁ…そのことね…。」
しのぶは少し間を置いてから、面堂の問いに答えた。
「…私、もうあたる君のことは何とも思ってないのよ。これは本当。
でもあたる君もラムも含めて、みんなとの毎日が楽しいって、本気で思っているの。
だから、そんな毎日を映画にできたらいいな、って思って…。」
「ご自分が出演される気はないのですか?」
「…そうねー…ない、と思うわ。」
「そうですか。変なことを聞いてすみませんでした。」
今度は面堂が軽く頭を下げた。
「いいの。何とも思ってないわ。」
すれ違う車のヘッドライトの光に包まれて、しのぶがにっこりと微笑んだ。


(4)へ続く

始めは4、5話で終わると思っていたけど、もう少し長くなりそうです。


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