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翌朝、俺は自分から目が覚めた。
いつもなら誰かが起こしてくれるまで爆睡しているのだが、
今朝は母さんはいないし、ラムは、ラムは…。
部屋を見回すが、ラムの姿はない。
あれだけ怒ってりゃ、当然か…。
制服に着替え、俺は1階へと降りていった。


居間のふすまを開けると、テーブルの上には、少し焦げたトーストと牛乳がのっていた。
「ラムが用意したのか?」
俺がその前に腰を下ろした直後、ふすまが開いた。
ラムだ。
「あ、ダーリン…。」
「…はよ…。」
お互い気まずそうに言葉を交わす。
ちらちらとラムの表情を盗み見るが、ラムは目を合わそうとしない。
「お母様がまだ帰ってきてないから、ちゃんと御飯用意できなくって…。
これなら、うちが作ってもダーリンは食べれるかなって。」
「そうか…。」
視線を合わせないままに苦笑いを浮かべるラムの姿が、耐えられなかった。
俺は意を決して話を切り出した。


「昨夜のことだけど。」
ラムの肩がビクリと震える。
「…何?」
初めてラムが俺の目を見た。
「泣かせたのは悪かったと思ってる。けど…。」
どういう顔をして言えばいいのか自分でも分からなくて、今度は俺の方が視線を外した。
「謝る気はないから。」
強い口調で言い切り、もう一度ラムを見た。
「…何で?」
さっきからずっとラムの口調は弱々しく、力がない。
いつもは朝から元気一杯、明るさが取柄な奴なのに。
俺がそうさせたのかと思うと胸が痛い。
でも、それでも、どうしても謝る気にはならない。
「お前の方が悪いから。」
俺の言葉に、ラムはカチンときたようだ。
手をぐっと握り、キツイ目で俺を睨む。
「何でうちが悪いんだっちゃ!ひどいっちゃ、ダーリン!」
「…ひどい≠フはそっちじゃねーか…。」
だんだんと腹が立ってきた。
「あの状況で、何もない方がおかしいだろうが?!」
「そんなこと…っ、」
「何でなんて、聞きたいのはこっちの方だ!
普段は頼みもせんのにべたべたべたべたしてくるくせに、何で今更平手打ちされにゃならんのだ?!」
言うつもりじゃなかった言葉が、堰を切ったかのように溢れ出してくる。
ラムは俺の剣幕に押されて、言い返すことができない。
「何がダーリン≠セ、何が夫婦≠セ、馬鹿馬鹿しい!お前、俺を何だと思ってるんだ。
あんな、2人っきりで、一緒に寝たりしたら、普通誰だって同じことするだろーがっ!」
「でも、でもダーリンは、前はそんなことしなかったっちゃ。一緒に寝たって何もしなかったっちゃ。」
ラムが必死に訴える。
あぁ、思い出した。でも、あれは…。
「あのときは、お前が放電するわ、余計なもん着せるわ、うるさい奴らの邪魔が入るわで、
昨日とは状況が違ったじゃないか。でも昨日は…、」
「昨日は、可愛かったからっ、だから…、」
言いかけて、俺は思わず口を押さえた。
うわっ、何言ってんだ、俺。
横目でちらっとラムを見ると、ラムは驚いたような、呆然としたような顔をしてこちらを見ていた。
あ〜もうっ!
「とにかく、絶対謝らんからなっ!」
俺はそう叫んで、牛乳一口さえも口にしないまま、逃げるように家を出て、学校に向かった。


教室に入ると、そこはいつも通りの空間で、今の俺にはほっとした。
「しのぶ〜、おはよ〜v」
「あら、おはよう、あたる君!」
後ろから抱き付こうとした俺を、しのぶの振り向きざまの張り手が襲った。
お、あそこにいるのは…
「竜ちゃ〜んvおはよ〜v」
「よぉ。」
今度は、振り向きざまの右ストレート。
相変わらずの強烈な拳に、吹き飛ばされた俺の落下地点は面堂のタコ頭。
ガチーンと鈍い音がして、空中で激突する。
「…貴様ーーーーっ!この無礼者ーーーーっ!」
ビュンビュン振り回すタコの刃を白刃取りで受け止め、タコの顔面を足蹴にする。ちょろいもんだ。
「あ、ラムさーん、おはようございまーす!」
教室の奥から聞こえてきたメガネたちの言葉に、俺はぎくりとした。
「おはようだっちゃ。」
ラムが教室に入ってくる。
「どうしたんですか?今朝は何だか元気がないですね。」
「風邪とか?」
いろいろ聞いてくる4人組に、らしくない愛想笑いを浮かべながら、曖昧な返事をしている。
俺はそんなラムの様子に、自分までも気が滅入ってくる感じがして、
他クラスの女の子たちを求めて、教室を飛び出した。
教室を走り出るときにラムとすれ違った。


昨夜ラムの角に結ばれていた黄色いリボンは、もう無くなっていた。



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