「竜ちゅわ〜〜ん!帰りにおしるこ食べに行かな〜い?!」
バキィッ!!
「明菜ちゃん、放課後、デートしよーよぉ〜!」
バシッ!
「ねーねー、君ーお茶飲みに行かないーー?」
ドカッ!

…よくやるわね。
私はふぅとため息を1つついて、あたる君に声をかけた。
「あたる君、たまには一緒に帰りましょうよ。」
「…え…?」
私の誘いに対して、彼が一瞬戸惑いの表情を浮かべたのが、私には分かった。
「あ、えと、うわぁ、嬉しいなー!しのぶから誘ってくれるなんて!
んで、どこ行く?!おしるこ?ソフトクリーム?ケーキ?僕、何でもおごっちゃうよ〜ん♪」
両手を広げて、顔を崩してへらへら笑うあたる君。
…無理しなくてもいいのに。
私は鞄を右手に持って、左手であたる君の制服の袖を軽く引っ張った。
「行こ、あたる君。」
「うん!にゃはははは〜♪」
私たちが教室から出て行こうとすると、
「ちょーーーーっと待ったーーーーああぁぁ!!!」
メガネ君だ。
「あたるーーーっ、おのれはラムさんをこのまま放っておくつもりかーーーーっ?!」
物凄い形相であたる君を怒鳴りつける。
「メガネ、そんなアホは放っておけ。それより諸星、ジャリテンはどうした?」
興奮状態のメガネ君をたしなめて、面堂さんがあたる君に尋ねる。
「…知らん。」
あたる君は視線を逸らした。
「またそうやってダンマリを決め込むつもりか?
さっき7組の教室に行ったが、蘭さんも既に退学届けを出していて今日は登校していないそうだ。
となると、後はあのクソガキに頼るしかないんだ。さあ言え、諸星。ジャリテンはどこにいる?」
一歩近づいて、もう一度あたる君に問い掛ける。
あたる君は横を向いたたまま、
「昨夜、母親があいさつに来て、連れて帰った。」
と吐き捨てるように言った。
「昨夜?では諸星、貴様やはり知っていたんだな?!
ラムさんが星へ帰るということを。そうなんだな?」
また一歩詰め寄って、面堂さんがあたる君を問い詰める。
あたる君は目だけで面堂さんの方を見た。
「知ってた。」
「…っ貴様ーーー…!」
面堂さんの顔つきが変わって、刀にその手をかけると、一気に鞘から引き抜き、
鋭く光る刃をあたる君の顔に突きつけた。
「何故引き止めなかったんだ!?
今日の様子からして、星へ帰るのはラムさんの真意では決してなかったはず。
貴様が引き止めていれば、ラムさんは…」
「どーしようもないだろうが。」
面堂さんの言葉を、あたる君が落ち着いた声で遮った。
それはとても冷たい声。
「どうしようもないことさ。宇宙のお偉い方々の事情なんざ、俺には関係ない。
それより…」
あたる君はくるっと向きを変え、
「今、問題なのは、これからの君と僕の付き合いについてだよ、竜ちゃーーんっっvv」
竜之介君に向かって勢いよくジャンプした。
「竜ちゃーん、カキ氷食べに行こーよー♪」
竜之介君の胸にすり寄る。
「なーにしやがんでえぇぇいっ!」
竜之介君の右ストレートがあたる君の顔面にヒットした。
私は、そのまま窓の外に飛んで行きそうになったあたる君を受け止め、彼を引きずるようにして教室を後にした。


私に引きずられている間、あたる君は何人も女の子に声をかけ、隙あらば私の手から逃れようとした。
彼は分かっていたのだろう。
どうして私が一緒に帰ろうと誘ったのか。
「ここに入りましょうよ。」
品のいい喫茶店の前で私は足を止め、地面に腰を下ろしているあたる君を見下ろした。
「…いいけど…」
気乗りしない返事。
それを無視して、そのまま彼を引きずって店内に入った。
冷房が効いていて気持ちがいい。
私はアイスティーを、あたる君はアイスコーヒーを注文した。
「さてと…あたる君。」
「しのぶ…。」
私が話し出そうとすると、あたる君がマジな顔をして私の手をぎゅっと握った。
「しのぶ…お前から誘ってくれるなんて、やっぱり俺達は結ばれる運命にあるんだ!
さぁ、俺達2人の明るい未来について語り合おーじゃないかっ!」
握り締めた私の手に頬を摺り寄せてくる。
私はそのままの状態で、次の彼の行動を待った。
「…しのぶ…?」
素の表情に戻り、強く握っていた手の力が抜けた。
「いくらそんなことしたって、今日は殴り飛ばしたりしないわよ。」
私は真顔で言ってやった。
分かってるんだから。
わざと私を怒らせて張り飛ばさせて、この場を逃れようとしてるの。
「………。」
あたる君は観念したように私の手を離すと、椅子の背もたれに体を預けて窓の外に目をやった。
…話したくないってことね。
でも、私は       。
「いつ知ったの?」
「…何を?」
「ラムが星に帰るってことを。」
「昨夜。」
「ラムが言ったの?」
「あの親父が来て。」
「ラムはどう言ってたの?」
「嫌がってた。」
「…あたる君は?」
「……別に、何とも。」
そこまで言うと、テーブルの上からグラスを取り、アイスコーヒーを口に運んだ。
私もアイスティーを一口飲んで、喉を潤してから、また話を続けた。 
「あたる君はこのままラムと別れてもいいの?」
「別れるも何も、元はといえば向こうが勝手に押しかけてきたんだぜ。
いなくなってせいせいしたわい。」
にゃははははと笑って言う。
窓の外を向いたままで。
「こっち見て同じこと言ってみなさいよ。」
少しきつい口調で私が言うと、あたる君は嫌そうにこちらを向いた。
「いなくなってせいせいした。」
抑揚もなくロボットのように同じ言葉を繰り返す。
嫌な言い方。
今度は俯いてアイスコーヒーを飲む。
昔からのあたる君の癖。
嫌なことがあると、そうやってすぐ目を逸らすの。
「ねぇ、私の前でまで無理しなくてもいいのよ、あたる君。
あれじゃあ、ラムが可哀想だわ。あたる君だって本当は…」
「別に無理なんかしてねーよ。」
段々あたる君の口調が荒くなってきた。
かなりいらついているのだろう。
「何かいい方法があるはずよ。このままじゃすっきりしないでしょう?」
タンッとグラスをテーブルに強く置く音がした。
あたる君と視線が合った。
「俺は何ともないって言ってるだろう。何だよ、さっきから。
だいたい宇宙人と地球人なんてそんな真剣に付き合ってられっかよ。
あいつだって今はビービー泣いてるかもしれないけど、その内また同じ星の奴とくっつくだろ。」
急にまくし立て始める。
「あぁ、案外あのブタウシとヨリが戻ったりしてな。しのぶ、この機会に俺達もヨリ戻そうぜ、な?」
再び私の手を取ると、顔を近づけてきた。
「しのぶ…。」
「ラムのお父さんに言われたの?」
私の手を握る彼の手が、ぴくっと反応した。
「宇宙人と地球人がいつまでも付き合ってられないって、そう説得されたの?
だからラムのことは諦めてくれって言われたの?」
「ちが…」
否定しようとする。
視線を外して。
「それがラムの為だって、ラムのことを想ってくれるなら諦めてくれって…」
「うるさいっ!」
私の手を振り払って立ち上がった。
「仕方なかったんだっ、どうしようもなかったんだ!」
それだけ言うと、あたる君は店の外へ走って出て行った。
私は1人、店に残されてしまった。
「…あーあ、鞄忘れてるわよ。あ、アイスコーヒー代、誰が払うのよぉ。」

責めるつもりじゃ、なかったんだけどなぁ。


…じゃあ、私はどうしたかったんだろう。
何が言いたかったんだろう。




(続く)


青春ですなぁ。「高校生日記」?

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