ラムや蘭、テンちゃんたちが急にオニ星に帰ってから、二度目の春が来た。
私たちは友引高校を卒業し、それぞれの道へと進んだ。
面堂さんは国立T大学へ入学した。本格的に面堂財閥の後を継ぐための勉強をするらしい。
メガネ君は高校2年で中退し、放浪の一人旅に行ってしまった。
余程ラムのことがショックだったのだろう。
竜之介君は友引高校購買部でそのまま働いている。

私はと言えば、ドラマのようなキャンパスライフを夢見て、某女子大に入学した。
「大学に入ったからにはやっぱサークル活動よね!」と言う友達と一緒に入ったのは…天文学サークル。
みんなで素敵な夜空を見上げましょうってことで。
元々星占いとか結構好きだったから、まぁいいけど。

そしてあたる君は      




「しのぶ…星がきれいだね…でも、幾千幾億の星の輝きを集めても君の瞳の輝きには敵わないよ…。」
「あ〜ら、ありがとうっっ(怒)。」
「イチチチチ…(涙)。」

あたる君は某私立大学に二次募集でギリギリ合格し、奇跡的に大学進学を果たした。
やっぱり彼とは腐れ縁なのかな、お互いの大学の位置が結構近い。
そのため、いろんなサークル同士で交流があった。
そのツテで、あたる君もこの天文学サークルに顔を出すようになっていた。

「しのぶ〜俺とお前の仲じゃないか、つれないなぁ。」
「どういう仲よ。」
「どうってまたまた〜ぁ、分かってるくせに〜ぃ。」
すりすりすりすり。
「ひいいぃぃぃーーっ!!」
ばきいっっっ!!
「やめんかーい!」
「ふぎゃっ!」

あたる君はいつもの調子で声をかけてくる。
私もいつもの調子で返す。
変わらない。
変えたくない。

「あらあら、賑やかだと思ったら、諸星君が来てたんだぁ。」
「あ、部長!」
「うわぁ〜い、桐子せんぱ〜いv」
パタンと部室の扉が開く音がして振り向くと、長身、ロングヘアの美人が立っていた。
「まーた、しのぶちゃんに会いに来ちゃったのーぉ?」
にこにことあたる君に笑いかける。
「やだなぁー、もちろん先輩に会いに来たんですよ〜ぉvv」
あたる君は先輩に気安く抱きつくと、その胸に顔を埋める。
部長は変わった人で、あたる君がこんなに馴れ馴れしくしてもいつも怒らない。
にこにこと受け止めている。
何で平気なのか、私も含めて周りの人間は不思議で仕方がない。
あたる君のことを好きなようにも見えないし。

「さて、じゃあ部会を始めましょうか!」
あたる君をひょいっと捨てて、部長がみんなに呼びかけた。
私たちは長テーブルの周りに集まる。
あたる君は少し離れて窓の方へ寄った。
「今週の金曜日、午後6時から、星見会を開きたいと思います。
みんなの都合はどうかしら?」
部長は私たちをぐるりと見回して聞いた。
俺はいい、あたしバイト、等みんなが口々に答える。
私は…と、手帳を開いてみる。
ん、予定はない。
「しのぶー、しのぶも来るのか?」
いつの間にか後ろに来ていたあたる君が私の手帳を覗き込む。
「そーね、特に用事もないから来るつもりよ。」
「へぇ、じゃあ俺も来ようっと♪」
また、か…。
私は小さく溜息をつく。
あたる君は全然気づいておらず、
「はいはーい!せんぱ〜い、しのぶが参加するって!」
と、私の右手を上に引っ張って無理やり申告させた。
「はーいはい、しのぶちゃんは参加OKね…。」
部長が嬉しそうに名簿に丸印をつける。
「諸星君は?」
顔を上げてあたる君に笑顔を向けた。
そう、私が参加するといつも、
「はーい、もちろん参加しまーすv」
元気よく挙手するあたる君。
「諸星君も参加ね!」
名簿の欄外にいつの間にかあたる君の名前が書かれている。
部長はにっこり笑って丸印をつけた。
「じゃあ、金曜日の夕方6時、サークル棟屋上に各自必要なものを持って集合ね!」
「は〜い!」
…何で部員じゃないのに1番大きな声で返事するのよ…。
はぁ…。




お風呂から上がって、机の引き出しを開ける。
中学の頃からずっと書き続けている日記。
もう何冊目になったのかしら。
濡れた髪をバスタオルで拭きながら、日記帳の鍵を開けた。
今日の出来事や気持ちを思いつくままに書き綴っていく。
講義のこと、友達のこと、サークルのこと…。
「星見会は(金)6:00〜…と。」
あたる君も来るのよね…。
ふと窓の方を見る。
カーテンの隙間から暗闇が覗いている。
椅子から立ち上がって、カーテンをついと開けた。
「今日は曇ってて見えないわ。星見会のときは晴れるといいけど…。」
厚い雲に覆われて、夜空に浮かんでいるはずの星は全く見えない。
「これじゃあ、あたる君、がっかりしちゃうわね。」




星見会の日がやってきた。
昼間の講義が終わった後、図書館で課題レポートをしたり友達とお茶したりして時間を潰してから、
サークル棟屋上の扉を開けた。
鉄製の頑丈な扉に手をかけると、ギギィという嫌な音と錆の匂いがした。
「しのぶちゃん、遅かったわね!」
いつもの笑顔で迎えてくれる部長。
「えー、遅いですかぁ?まだ5時半なのに。」
腕時計を部長の方に向けると、
「だって、ほら。」
部長の視線の先には
「あ、しのぶ〜、待ってたんだよ〜ぉv」
あたる君がいた。
早…。
私は軽いめまいさえ感じた。
気を取り直してまだ明るい空を見上げる。
うん、いい天気!
歩を進めてあたる君の隣に立ち、手すりに肘をつけた。
「今日は星がよく見えそうね。」
と微笑みかけると、
「…そうかな。」
気のなさそうな返事だけが返ってきた。


「はーい、只今6時になりました!それでは、第…何回だっけ??星見会を始めたいと思いまーす。」
「はーい!」
部長の声を合図に、各自準備を開始する。
先輩達は大型の天体望遠鏡を組み立ててセットする。
私たちは本と方位磁針を見ながら、「この時期は南の方に…」「この星を見るにはどっちの方角?」と調べ始めた。
私も天体望遠鏡、欲しいなー。
駅前のデパートで買った双眼鏡を覗き込んでみる。
目に飛び込んできた巨大な眼球。
「しーのーぶーv」
ば、化け物!
「きゃああああぁぁぁぁ!!」
バシーーーーンっ!
「くだらないことしないで!!」
「あ…がー……」
私の平手を受けたあたる君が足元に転がった。


辺りが大分暗くなってきた。
「今夜は絶好の観測日よりね!」
「ホント!」
「ね、ね、今の流れ星じゃない?」
「ウソ?!お祈りお祈り…」
みんな楽しそうに星を眺めている。
私も友達や先輩達と一緒に天体観測を楽しんでいた。
あたる君はと言えば、部長のところにいた。

「先輩ってホント、星が好きなんですねー。」
「えぇ、大好き。諸星君は?」
「勿論です!でも…」
真剣な顔になって、部長の肩に手をまわす。
「でも…幾千幾億の星の輝きを集めても先輩の瞳の輝きには敵いません…。」
部長の両手を握り、徐々に顔を近づける。
「諸星君…。」
ったく、またアホなことを。
呆れて止める気にもならないわ。
「さぁさ、星を見ましょうね。」
にっこり笑って、部長があたる君の手の甲をつねった。

星見会の間、あたる君はほとんど部長の側にいる。
初めは、いつもの病気だと思ってあたる君の駆除に努めていたけれど…。
レンズから目を離してあたる君と部長の様子を窺う。
部長は星に詳しくて話し上手、おまけに美人で気さくな人だから、男女問わず好かれている。
あっという間に部長の周りにみんなが集まっていた。
あれじゃあ、あたる君も手を出しにくいでしょ。
そう思っていたの、初めはね。

でも違うんだと、じきに気づいた。

部長の望遠鏡は部員みんなの中で1番性能のいいものだった。
星が大好きで、思う存分見たいからと、
地道にバイトをしてお金を貯めてやっと手に入れたって嬉しそうに話してくれた。
星見会のときだけ、家からわざわざ運んでくるのだ。
あたる君は部長の手なんてとっくに離して、その望遠鏡を覗いていた。
賑やかに星談義をする人たちをよそに、一心に。
それに気づいた部長が彼に声をかける。
「どう?今日は雲がなくてよく見えるでしょう?」
ぽんと肩を叩かれて、夢中で見ていた彼は驚いたようだった。
「あ、は、ははは…そうですねーー!」
焦って適当な返事をする。
「諸星君もかなり星好きなのねぇ。この際入部しちゃいなさいな。」
「え、いやぁ、はははは…。」
頭の後ろをかくばかり。
「あ、あのー…先輩?」
あたる君がためらいがちに聞いた。
「なあに?」
「今日みたいな天気のいい日なら、かなり遠くまで見えるんですよねぇ?」
「そうよー。まさに観測日よりね!」
「どんな星でも?」
「え?」
あたる君の様子がさっきまでと違うのに気づいた。
「どの辺りまで見えるのかなぁ…。」
「んー、諸星君はどの星を探してるの?
名前、教えてくれれば私が望遠鏡の向きとか合わせてあげられるけど?」
「名前…。」
「星座?星?それとも惑星?」
「あー…、はははは、やっぱいいや!」
あたる君は自分で話を終わらせて、また空を見上げた。
部長は首を傾げたが、他の部員に呼ばれてまた星談義に戻った。

星見会の終わりの時間がやってきて、みんなが道具を片付けだした。
私は双眼鏡と図鑑をバッグにしまった。
「あたる君は…と、」
きょろきょろと辺りを見回すと、いた。
みんなから離れた所で、1人手すりにもたれて空を見上げている。
物も言わず、身動きもせず、ただ、じっと。
私はそっとその隣に立った。
「…っ、し、のぶ〜v ロマンチックな夜だね〜。」
急に思い出したかのように私の方に顔を向ける。
「キレイな星空ね。」
「いやぁ、幾千幾億の星の輝きを集めても君の瞳の輝きには敵わないよ〜♪」
猫なで声で私の肩に手を回す。
「しのぶ?」
殴ろうとも突き飛ばそうともしない私に、訝しげな目を向けるあたる君。
だって、私はそんな気にはなれなかったの。
「…星は見えた?」
「え?」
私は空を見上げた。
「遠いわねー…。」
「…何言ってんだよ。」
あたる君が手を離してそっぽを向く。
「この星空の向こうにあるはずなのよねぇ。元気にしてるかしら。」
あたる君は何も答えず、また空を見上げた。
そのとき、星がきらっと輝いて流れるのが見えた。
「あ、流れ星…お願いしたら?」
「アホらしい。」
「じゃあ、私が代わりにやっとくわよ。」
私は両手を合わせて目を閉じる。
「よせって、くだらん。」
あたる君が頬杖をついて俯く。
私は構わず願い事をした。
「ラムが戻ってきますように。ラムが…」
「止めろって!」
「あたる君…。」
そっと隣を見ると、俯いたまま両手を握り締めていた。
「んなことしたって…」
言葉が続かない。
顔を上げることができない。

あぁ、まだだめなんだ…。

「ごめん…。」
私が謝ると、
「ごめん。」
と、あたる君も同じことを言った。

良く晴れた夜空はとても広くて大きくて、
数え切れないほど輝いているあの星星の中のどれか1つが、
彼女の住む星であったらいいのにと、祈らずにはいられなかった。
大切な幼なじみのために。



(続く)


イメージソングは「天体観測」(BUNP OF CHIKEN←綴り合っているのか?!)でお願いします(__)



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