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だんだん夏が近づいてきて、太陽の光に熱を感じる。
私はノースリーブのブラウスに膝丈のスカートで、少しにじむ汗を拭きつつ駅前を歩いている。
左手を見ると見事な黄金色のひまわりの花が、花屋の店頭に誇らしげに並んでいた。

あぁ、ひまわりってあの娘のイメージだわ。

艶やかで屈託なく人の目を引き付ける。
悔しいほどに。
それは時が過ぎても私たちの心の片隅に咲きつづけ、またいつか会えるかもしれないという夢と期待を抱かせる。
もう10年も経つというのに     




私は一軒の喫茶店の前で足を留め、その涼しげなガラス戸を開けた。
中に入るとひんやりとした心地よい空気に触れ、気持ちを落ち着かせてくれる。
店の中は結構人が込んでいて、ぱっと見ても空席は見当たらない。
少しきょろきょろと見回すと、店の奥の方の2人がけの狭いテーブルが空いていることに気づいた。
私はそのテーブルに着いた。
「まだかしら…。」
店内をぐるりと見るが、彼の姿はない。
時計を見ると、3時を5分過ぎている。
「何よ、遅れたと思っていたのに、向こうの方が大遅刻だわ。」
そんな独り言を言っている間にウェイトレスが注文を取りにきたので、取り敢えずアイスティーを頼む。
頬杖をついてガラス越しに見える外の景色をぼんやりと眺める。

早く来てくれないかしら。
早く話してすっきりしたいのに。

鞄の中から一通の白い封筒を取り出す。
それを表に裏にと引っくり返して手無駄ごとをする。

あーあ…。

カランカラン。
「いらっしゃいませー。」
店のガラス戸に付いている小さな鐘の音が鳴ったので、そちらを見る。
彼だ。
「あ…」
私が声をかけるよりも早く、
「しのぶーv」
彼の方が私に気づいてすっ飛んできた。
そしてすばやく私の両手を握り、
「待たせてごめんよ…中々仕事が終わらなくて…。」
と、目を伏せて真剣な顔で言うので、私は呆れた声で教えてあげた。
「あたる君、ほっぺたに平手の跡がはっきりと残ってるわよ…。」
「にゃはははは〜〜。」

「で、話って何?」
ウェイトレスが運んできたアイスコーヒーを口にして、
暑そうにネクタイを緩めながら、あたる君から聞いてきた。
「うん…あのね…。」
私は意を決して、テーブルの下に隠していた白い封筒を、彼に差し出した。
「これ…。」
「何?」
あたる君はそれを私の手からそっと取って表を、次に裏を見た。
「……。」
「あのね、私…。」
「…へー…とうとう結婚するんだぁ…。」
封筒を見たまま呟くように言う彼。
「…うん。」
「どっちで暮らすんだ?」
「う…ん、迷ったんだけど、こっちで暮らすことにした。」
「あいつ、仕事はどうするんだ?こっちで探すとか?」
「あ、ううん、そうじゃなくって、こっちで一緒に暮らして、仕事は向こうに通うようにするの。」
「亜空間ポイントから?」
「うん。家の中にポイントを繋げて、仕事用の扉を付けるの。そこから直で亜空間に行けるようにするんだって。」
「へぇ…できるんだ。」
「うん。」
そこで一旦会話が途切れ、あたる君は封筒をテーブルの上に置いた。
私は気まずくなって次の言葉を探す。
するとあたる君が顔を上げてまっすぐに私の目を見て言った。

「おめでとう。」

何だか嬉しそうに柔らかく微笑んで言うから、私はちょっと拍子抜けした。
「…ありがと…。」
「何だよ、元気ないじゃん。」
はははは、と笑うあたる君の様子に、少しがっかりしている自分がいるなんて。

やだ、私ったら。
私はまだどこかで期待していたみたい。
あたる君が反対してくれるのを。私のことを好きだって言ってくれるのを。
そんなはずないのに。
あたる君はきっと今でも     

「何で因幡さんたちは良くって、ラムたちはダメだったのかしら。」
あたる君の表情が固まった。
「さぁな。」
グラスを手にとってアイスコーヒーを口にする。
「宇宙人と亜空間の人って、違うのかしらね。
私からすれば似たようなものだと思うんだけどー…。」
「いいじゃん、どーでも。」
その投げやりなものの言い方から、彼がこの話題を拒絶しているのが明らかに分かる。
あたる君の視線はやっぱりガラスの向こうをむいていた。

「…もう、何とも思ってないの、ラムのこと?」

私は思い切って聞いた。
ずっと聞きたくて、でも聞けなかったこと。
聞くのが怖かったの。
ラムの話を振るといつも嫌そうな顔をするし。
それに。
彼の返事が怖かったのだと思う。

まだ、好きなの、かな…。
もう、10年も経つのに…。

ちらりとあたる君の様子を窺う。
彼の視線は外の景色からテーブルの上のグラスへ戻っていた。
グラスの中の氷が音も立てずにゆっくり崩れ、底の方へと徐々に沈んでいく。

私は何かしてあげたかった。
幼なじみ兼元恋人の彼のために。
固まってしまったあたる君の心を、溶かしてあげたかった。
楽にしてあげたかった。

「別に何とも思ってないよ。」

俯いたまま返事する声。
そんな言い方じゃ「今でも思ってるよ。」って言ってるようなものじゃないの。
辛いよ。
寂しいよ。
哀しいよ。
だから、ねぇ。

「私にたいして無理するの、止めてよ。」

私が助けてあげる。
慰めてあげる。
楽にしてあげる。
優しくしてあげる。
受け止めてあげる。


だからもっと私に甘えて。


「にゃはははは、別に無理なんかしてないってばー!
しのぶの方こそ、今日はしのぶの結婚祝いでもやろーぜー。
パーマたち呼んでさぁ。面堂のタコにも声かけてやるか!
あいつ、絶対悔しがるぜー。はははははは!」
「あたる君…。」
「ホントに、もう何とも思ってないって!だってもう何年経ったと思ってんだよ。
えっと、10年くらい経ってるんじゃないか?今更何を思うってーの。」
「だって、だって、あたる君いつもラムの話するの嫌がるじゃないの。」
「そりゃあろくな思い出ないし。何かってーとすぐ電撃だし、どこに逃げても空から追いかけてくるし。
俺の甘美な楽しみであるガールハントの邪魔はするし!」
両手を宙で広げて肩をすくめる。
「そもそも俺とお前が別れたのだってアイツのせいじゃないか。
アイツさえ現れなかったら、今ごろ俺としのぶが結婚してたかもしれないのにー!」
そう言ってテーブルをひょいと飛び越え、私に抱きついてきた。
「しのぶ〜ぅ、愛してるよ〜ぉvv 因幡なんかやめて、ボクとヨリ戻そうよ〜v」
私はそれ以上彼の軽口を聞くのが耐えられなくて、堪らなくて
「うん…。」
と頷いてそっとあたる君の背に腕を回した。
「しの…ぶ?」
言葉を続けることができず、私は無言であたる君の背をなでた。
自分の頬に伝うものを見られたくなくて、顔を伏せる。
あたる君はそれ以上何も言わなかった。




居づらくなったので、私たちはその店を出た。
あたる君が晩御飯をおごってくれるというけど、さっきのこともあってとてもそんな気にはならず、
私は今日はもう家に帰ることにした。
今日1番の目的、結婚の報告はしたんだし。
家まで送ってくれると言うので、私はあたる君と並んで、家に向かって歩いている。
店を出てからというもの口に出すのは実に他愛もない話ばかり。
テレビのドラマのこと、仕事の愚痴、終いには明日の天気について。
私は意識的にラムに関する話題を避けていた。
どうしても私ではだめなんだということが、さっきので分かってしまったから。
10年経っても彼は変わらないんだと、気づかされてしまったから。

「もー、面堂のアホ社長ぶりにはまいっちまうよ。俺に社長のいす、譲れっちゅーの。」
「何言ってるのよぉ。」
あたる君は大学を卒業した後、面堂さんのお家の経営する会社に就職した。
超高競争率を如何にして突破できたのやら。
まぁ、あたる君のことだから、まともに就職試験を受けたとは思えないけど。

「だって、あのアホ    

あたる君の足が止まった。
その視点は真っ直ぐ一点のみに向けられている。
話の途中だったので、口をぽかんと開けたまま、固まった。

「何?どうしたのよ…」
あたる君と同じ方向を見る。

そこには1つの人影があった。
女の人。
腰ほどまであるロングヘアが柔らかく揺れている。
すらりとしてグラマーな体の線が遠目にも分かる。
年は私と同じくらいに思えた。

「……。」
「あたる君、知ってる人なの?」
あたる君はその人をじっと見たままうわ言のように答える。
「いや…でも…。」
その人影はゆっくりとこちらに向かって歩いていた。

ここはさっきの繁華街とは違って住宅が多いので、人通りはさほど多くはない。
今この直線上には私たち以外誰もいなかった。
あたる君が身動き一つしないでその人を見つめているので、私も立ち止まって彼女を見た。
だんだん近づいてきて、顔立ちまで露になってきた。

腰に届く長くて黒い髪が、彼女の体の動きに合わせてふんわりと揺れる。
大きい瞳はややつり上がっていて、快活そうな印象を与えた
ふっくらした唇には赤いルージュが引かれており、目が引き付けられる。
長い髪がかけられた左耳には、ピアスが2つきらりと光った。
しっかりした足取りで歩いてくる彼女の瞳もまた、私たちの方を見ているような気がした。

彼女が私たちのすぐ近くまで来た。
あたる君はずっと彼女の方を見続けている。
まだ離れているときにはこちらを見ていたように思えた彼女も、
近づいてくると素知らぬ顔で私たちの横を通り過ぎる。
伏目がちの黒い瞳が綺麗。
ヒールの音を軽く響かせながら、彼女は通り過ぎた。

「あ…」
急にあたる君が声を上げて、彼女の肩を掴んで振り向かせた。
「あ…の…」
彼女はあたる君の急な行動に驚いて、
「きゃっ」
と小さな声を上げて振り返る。
あたる君と彼女の目が合った。
「あ、あたる君っ、」
私は慌ててあたる君の手を彼女の肩からどけた。
「ご、ごめんなさいね、急にこんなことして…、ほら、ぼけっとしてないで謝りなさいよ!」
あたる君の代わりに彼女にお詫びを言った。
彼女は私の方を見て、軽く頭を下げる。
そしてまた、あたる君を見た。
あたる君は私にどけられた手を宙に浮かせたまま、彼女から目を逸らすことができずにいる。
少しして彼女はあたる君にも頭を下げると、先へ進もうと体の向きを直し、歩き出した。

「ま…っ」
あたる君は手を伸ばして彼女を呼ぼうとした。
でも手が届くことはなく、空しく宙を切った。
あたる君の足が彼女の方に向かってゆっくりと1歩、2歩と動き出す。
そして駆け出した。

「ラム…っ!」

長い黒髪をたたえる彼女の後姿に、彼はそう呼びかけた。
「え…ラム…?!」
私はあたる君が何を言っているのか一瞬分からなくなって、立ち尽くす。
だってあの姿は     

あたる君はすぐに彼女に追いついてもう一度肩を掴んだ。
そして彼女を自分の方に振り向かせる。
「お前…何で…」
彼女は何も言わずにじっとあたる君を見ている。
「ラムだろ、そうだろ、なぁ?」
あたる君は必死に彼女に問い掛ける。
「なぁ、何とか言えよ、おい!」
彼女の両肩を掴んで強くゆする。
「なぁ、お前、ラムだよな、な?!」
何度も肩をゆすって「ラム」と呼びかけるあたる君を、驚いた顔で見つめる彼女。
そしてしばらくして彼女の口が動いた。

「…ダーリン…。」

懐かしい声。
それを合図にするかのように、
あたる君は彼女の肩に顔を埋め、その体をぎゅっと抱きしめた。
「ラム…ラム……ラ…ムー…」
何度も何度もラムの名を呼んで、抱きしめる腕に力を込めて、その存在を確かめる。
嘘じゃない。夢じゃない。幻じゃない。
もう二度と離さないように、居なくなってしまわないように。
まるで祈るかのようにその名を呼び続ける。
やがてあたる君の声が涙声に変わって、ただただ肩を震わせるようになると、
私は黙ってその場を離れた。














「しのぶさん…。」
優しく微笑みかけ、差し出された手に自分の手を重ねて、私は教会の扉を開ける。
緑の芝生の中に一筋の道。
その両側には大勢の見知った友や先輩、後輩の顔。
「おめでとう!」
「おめでとう、しのぶちゃん!」
「てめー、しのぶを幸せにしろよー!」
「きゃあ、しのぶー、綺麗よー!」
右手にブーケ、左手に彼の手を持って、私はゆっくりと進む。
純白のドレスが風に揺れて、祝福の紙ふぶきが宙を舞った。
「しのぶー、おめでとうだっちゃ!」
一際元気のいい声に振り返ると、満面の笑顔で拍手をするラムの姿。
大きく手を振って、
「因幡、しのぶと幸せに、だっちゃー!」
と叫んだ。
「ありがとう。」
と私もお礼を返す。


ラムは故郷の星を捨てて、地球人になってあたる君の元へ帰ってきた。
色鮮やかな碧色の髪は、私たちと同じ艶やかな黒色に。
澄んだ青い瞳は、深い黒の瞳に。
とがっていた耳の先は、曲線を描く地球人と同じ形に。
オニ族の象徴とも言うべき2つの角は、ない。
ラムはもう空を飛ぶことも、電撃を出すこともできない。
UFOを呼んで里帰りすることもできない。
二度とオニ星には帰れない。
両親にも、テンちゃんや蘭ちゃんたちにも二度と会えない。


全てを捨てて、ただあたる君の元へ帰ってきたのだ。


ふと気づくと、ラムの隣にいるはずのあたる君の姿がない。
「あれ?」
と、思った瞬間、
「ひいぃぃぃぃぃぃぃぃ〜!」
背筋に何とも言えない悪寒が走った。
「きゃあああぁぁぁぁ!!」
花嫁にはとてもふさわしくない叫び声を上げてくるっと振り向くと、
「しのぶ〜〜こんなウサギ男なんかにお前を嫁にやれないよ〜。」
あたる君がいつの間にか背中にくっついていた。
「な、な、な、…」
真っ白なバラのブーケが私の手の中でぎりぎりと握り締められ、形が歪んでいく。
「何やってんのよ、あんたはーーーーーーーーーっっっ!!!」
ブーケを放り投げて、あたる君を力一杯殴り飛ばした。
私の手を離れてゆっくり弧を描きながら舞う白いブーケ。
きゃあきゃあ騒ぐ女の子たちを他所に、ブーケが収まったのはラムの腕の中。
「きゃあ、ダーリン、これって次はうちらの番ってことだっちゃーーー?!」
それは嬉しそうにあたる君に飛びつくラム。
「えーい、離れんかい!」とラムを振りほどこうとするあたる君。


面堂さんも、メガネ君たちも、竜之介君も、温泉先生も、サクラ先生も、
暖かい日差しの中、みんなが2人を取り囲んで、笑っていた。




(終)


終わりですー。
イメージソングは「Secret base 〜君がくれたもの〜」(ZONE)でよろしくです。
←そのまんまやん。




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このままでも話は通じると思うのですが…、この最終話の中の、
あたる君がラムちゃんに再会して、しのぶちゃんが立ち去った後のことを
もうちょっと書いておきたいなぁと思うので、下に載せました。
その場合、しのぶちゃんの目を通して描くことができないので、
ダーリンとラムちゃん2人っきりの状況下でのエピソードとして別に書いていますー。



「Secret base 〜君がくれたもの〜 特別編」