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「い〜い湯だな〜っと…♪」
ちょうど良い湯加減で、俺は呑気に鼻歌を歌っていた。
さっきのラムの顔が頭に浮かぶ。
「あーやって見ると、あいつも結構可愛いよな〜…。」
いつもなら絶対思わないのに、今日はそう思える。
電撃や飛行能力がないだけで、随分印象が変わるもんだ。
「たまには新鮮でいいなぁ。」
にやけて独り言を言っていると、洗面所で物音がした。
風呂のすりガラスの戸の向こうに、人影が見える。ラムだ。
「ダーリン、結局、着替え忘れて行ってるっちゃよ。ここに置いとくっちゃ。」
「あ、そう言えば…。」
浮かれたまま風呂に入ったから、着替えのことなんてすっかり忘れていた。
「ホント、おかしなダーリン。」
ラムの声がガラス越しにくぐもって聞こえる。
俺は、ちょっとしたイタズラ心が起きた。
「なぁ、ラム。」
「ん?何だっちゃ?」
「背中流してくれよ。」
「え…っ?!」
あいつ、どういう行動に出るかな。
俺はわくわくしながらラムの返事を待った。
「ラム?」
「い、いいっちゃよ。」
「い゛…?!」
予想外だ(汗)。
OKするとは思ってなかった。逃げるかと思ってたんだ。
「ダーリン、…入るっちゃよ?」
「え゛っ?!あ、あぁ…。」
自分から言った手前、今更、「やっぱりいい」などと情けない言葉を口にすることは、俺のプライドが許さない。
かなり恥かしかったが、俺はそのままラムを待った。
すると、いきなり風呂場の電気が暗くなった。
「な、なんだ?!」
停電かと思ったが、小さい明かりはついている。
「…やっぱりちょっと恥かしいから、明かり、暗くしたっちゃ。」
風呂場に響くラムの声。
目が慣れてくると、風呂の戸を開けたラムの姿がぼんやりと見えてきた。
身に付けている俺のパジャマは少し大きくて、その長い袖を折って捲り上げているのが見える。
表情までは分からないが、濡れたらどうしようといった風に、袖やすその方ばかりに顔が向いている。
えっと…、どう声をかけりゃいいんだ(汗)。
「ダーリン、背中流してあげるっちゃ!」
無駄に響くその声がやや上ずっていて、向こうも緊張気味なのが伝わってくる。
ラムが湯船の方へと一歩近づいたとき、
「あ、あははははっ!やっぱいいやっ!自分でやるからっ!」
この場の空気に耐えられなくて、思わず叫んでしまった。
俺はラムに背を向けて、おそらく赤面してしまっているであろう自分の顔をラムの視界から隠した。
「そ、そうけ?…じゃあ、うち、行くっちゃ。」
またもや意味不明な俺の言動に、ラムは困惑した様子で、居間へ戻っていった。
ラムが行ってしまったのを確認してから、俺は湯船から出ると、洗面器一杯の水を頭からかぶった。


風呂から上がって居間へ入ると、ラムはまだテレビを観ていた。
番組はバラエティー番組からトレンディードラマに替わっている。
「面白いのか、これ?」
ラムの向かい側に腰を下ろし、声をかける。
「ん〜…。初めて観たから、よく分からんちゃ。」
ラムは画面に目を向けたまま、俺の問い掛けに答える。
言葉とは裏腹に、画面に釘付けだ。
俺もテレビを観ると、場面はちょうど甘いラブシーンだった。
しかし、さっき俺が観ていた洋画とは違い、日本人同士の爽やかな雰囲気だ。
俺にはこっちの方がかえって照れくさい。むしろさっきの洋画の方の続きが気になる。
しかし、ラムが妙に真剣に見入っていたので、チャンネルを替えるのは止めておいた。
お互い無言のまましばらくそれを観ていたが、宣伝になったところでラムが立ち上がった。
「うち、ジュース持ってくるけど、ダーリンも飲むけ?」
「あぁ、頼む。」
ラムは台所に向かった。
ところが、戻ってきたラムは、その手にジュースのペットボトルを持ってきた。
「ダーリン、ジュースのふたが固くて開かないっちゃ。」
「え?」
ラムが少しむくれた顔で差し出したペットボトルを受け取り、軽くふたをひねる。
確かに固い。
そう言えば、昨夜自分で飲んだ後、炭酸の気が抜けないようにと、きつく閉めたっけ。
少し力を入れてふたをひねる。
キュッと小さな音を立てて、ふたが開いた。
「ほらよ。」
ラムにペットボトルとふたを返す。
「ありがとだっちゃ。」
にこっと笑って受け取るラム。
…そっか、こんなのも開けられないんだ。
電撃がなけりゃ、ただのオンナノコってことか。
「はい、ダーリンの分。」
「サンキュー。」
ジュースの注がれたコップを受け取って、俺はまじまじとラムを見た。
俺のパジャマはラムの身体には少し大きすぎて、肩が落ち、手足は袖で隠れて指先しか見えない。
ぶかいせいもあって、胸元がかなり開いている。
もう少し屈んだら、見えそうだなぁ…。
などとよからぬコトを考えながら、ぼーっと眺める俺の視線に気づいて、ラムがこちらを向いた。
「何、ダーリン?」
「いや…、何にも。」
そう?と一言、ラムはまたテレビ画面に向き返った。
俺も顔は画面に戻したが、何となく頬杖をついたまま、目線だけは画面に戻すことができなかった。


そのまま、ただテレビを観て過ごしていた。
いつのまにか時計の針が12時をまわったことに、ラムの方が先に気づいた。
「ダーリン、そろそろ寝よ。」
「あぁ、そうだな。」
2人とも立ち上がり、2階の俺の部屋に上がる。
ラムが前を歩き、俺は後ろからついていく。
ラムが歩きながら大きく背伸びをすると、碧色の髪がさらさらと揺れた。
シャンプーの匂いであろう、爽やかな香りが漂ってくる。
部屋の戸を開け、中に入った。
ラムが布団を敷く間、俺は机で雑誌を読んでいた。
読む格好をしていた。
「ダーリン。」
背後からラムが呼びかける。
「一緒に寝よ♪」
俺の手から雑誌がぽろりと離れた。
「…は?」
俺が怪訝な顔をして振り返ると、ラムは笑顔で言葉を続けた。
「今日は寝ぼけて放電することはないから、耐電スーツも要らないし、いいでしょ?」
おいおいおい(汗)。
コイツ、頭、大丈夫か?
放電なし、耐電スーツなしで、それで一緒に寝たりなんかしたら。
俺はため息をついて立ち上がる。
「あのな、ラム…。」
「何だっちゃ?」
聞き返すラムの手元には、仲良く並んだ枕が2つ。
「お前なぁ…。」
言いかけた俺の言葉をさえぎって、
「ダーリン、ダーリン!うち、うでまくらして欲しいっ!!」
目を輝かせ、両手をグーにして、頬を紅潮させてラムが俺を見つめる。
分かっとらん…。こいつ、この状況が全っ然分かっとらん!
返答に詰まる俺の前に、布団を敷き終えたラムが立った。
「ねぇ、ダーリン、うでまくらっ!」
子どものように俺の手を軽くつかんでせがむ。
その声がいつもより甘ったるく聞こえ、上目遣いに見つめてくるその瞳がいつもより艶っぽく感じる。
「ダーリンっvv」
嬉しそうに、ラムがにっこりと笑いかけた。


自分より低い位置にある両肩、長めのそでからのぞく手は、どちらも思ったより小さく、華奢だった。
髪を一筋手にとってすいてみると、さらさらと聞こえない音をたててこの手から滑り落ち、
心地よい香りが立ち上った。
視線を落とすと目に入る、広く開いた襟からは、形のよい、豊かな胸が見え隠れする。
「ダーリン…?」
耳のすぐ側で発せられる声がくすぐったい。
その声、表情がどのようなものなのかを気にも留めず、俺はラムを抱きしめる腕に力を込めた。


昼間、学校の体育倉庫で、メガネたちと話をしたときのことが頭をかすめた。
だがしかし、自分の腕の中のラムの存在を感じるにつれて、それは記憶の彼方へと飛んでいってしまった。



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