※このpart4では、後の方で少しだけそのテの場面の描写があります。
そういうのがキライ、苦手、腹立たしいと思われる方は、
お読みにならないようにお願いします。






「ダーリン」と呼ぶラムの声が、何処か遠くから聞こえるような気がする。
ラムが自分の腕の中から逃げてしまうような気がして、抱きしめる腕に無意識に力を込めた。
腕の中のラムの身体は、想像以上に柔らかい。
その感触が気持ち良くて、俺はしばらくそのままでいた。




「…ーリン、ダーリン、ダーリンっ!」
大声で呼ばれて、はっと気が付くと、俺の顔のすぐ下から見上げるラムと目が合った。
「ダーリンってば、急にこんなこと…。びっくりしたっちゃ。」
そう言って視線を逸らすラムの顔が、少し赤らんでいる。
「でも、うち、うれしいっちゃv」
今度はラムの方から、俺の胸に顔をうずめた。
「ねぇねぇ、ダーリン!うでまくら、してくれるっちゃ?」
ラムはいつもと変わらない。むしろいつもより甘えている。
自分の中の何かが崩れていくのが分かる。
普段は押し留めているその感情を、これ以上押さえつけることはできなかった。


「あぁ。」


布団には、ラムが先に入った。
上半身は起こしたまま、
「ダーリンがこっち♪」
と、自分の右側に置かれた枕をぽんぽんと軽くたたく。
俺はラムの言う通りに、布団の上の右側に座る。
ラムは自分の分の枕をどけて、布団の上に身体を横たえた。
「ダーリン、腕、出してっ。」
ラムが俺の左手を引っ張って自分の頭の下へ持っていく。
同時に、俺の身体もラムの横に降りていき、2人は同じ布団の上に並んで横たわった。
左側に軽く首をひねると、幸せそうに俺の左腕に頬を摺り寄せるラムの顔が、視界に飛び込んでくる。
「腕、痛くないっちゃ?」
自分の左頬に回された俺の左手を取り、また頬を摺り寄せる。
更に俺の手を自分の口元に引き寄せ、愛しそうに唇を当てた。
「ダーリン、大好き。」
ラムはふふっと笑うと、そっと目を閉じた。


可愛いとか、
愛しいとか、
幸せとか、
満たされていく感じとか。


俺の馬鹿な頭の貧相な語彙では、この時の気持ちを言い表すことができない。
自分の中に広がる不思議な感情から、目を逸らさずに受け入れた。
すると、さっきから自分の中で頭をもたげ始めていた「何か」が緩やかに溶け出してきて。
俺はラムに左腕を預けたままで半身を起こし、安らかに目を閉じたラムの顔を見下ろす格好になった。


直ぐ真下にあるラムの綺麗な顔が、薄いカーテンを通して入ってくる月光にほのかに照らし出され、
何かの儀式が始まるような、幻想的な雰囲気を醸し出している。
「ラム。」
俺は、うわ言のように呟いた。
「…?ダーリン?」
俺の声に気づいたラムが、ゆっくりと目を開ける。
途端に視界に飛び込んできた俺の顔に、ラムは驚きの表情を浮かべた。
「何?どうしたっちゃ、ダーリン?」
その問い掛けに答えもせず、俺はラムの頭の下にあった自分の腕を優しく引き抜くと、
両手をラムの身体の外側につき、ラムを完全に見下ろす態勢になる。
「ダー…リン?」


ラムの瞳には明らかに困惑の色が見えた。
恐らくラムは、それまで、俺が何を考えて、どういう目でラムを見ていたのか、全然分かっていなかったと思う。
でもこのときの俺には、そんなラムを気遣うだけの心のゆとりがなかった。
ラムの大きな瞳が不安に揺れていることに気づこうとしなかった。


「ラム。」
目の前にいるラムに呼びかけるつもりはなく、ただその名を口にしていた。
ラムの耳元に唇を寄せ、もう一度「ラム。」と声を出す。
ラムがビクッと肩を震わせて返答する。
顔を背けようとしたので、ラムの頬にそっと手を添えて向き直させた。
「ラム。」
その赤味がかった唇に、自分の唇を押し当てた。
頬に添えられた俺の手のせいで、ラムは顔を背けることができない。


…唇って、こんな柔らかいもんだったっけ。


今までに何人かの娘とキスしたことはあった。その中にはラムも入っている。
それでも、こんなに柔らかく、蕩けそうな心地は初めてのような気がした。
「ん…っ。」
ラムが少し息苦しそうにしたので、一旦唇を離した。
「…あ…、ダーリン…、」
ラムが何か言いかけたが、俺は聞く耳を持たなかった。
言葉を紡ぎだそうとして開きかけたラムの口内に自分の舌を侵入させ、その中を掻き乱す。
怯え、逃げようとするその舌を捕らえ、強引に絡ませた。
月明かりと静寂のみが支配する空間の中、舌と舌とが絡み合う湿った音がやけに大きく聞こえる。
それさえも俺の気持ちを高揚させ、より一層深い口づけへと駆り立てた。
ラムの手が俺の肩口を掴み、押し返して抵抗しようとする。
しかし「オンナノコ」の力は弱々しく、俺はその手を簡単に捕まえると、手首を押さえつけた。
「んっ…ぅ…。」
痛かったらしく、苦しそうな声が抉じ開けられた口の端から漏れた。
俺はラムの舌と押さえつけた手首を解放し、
今度は痛くないようにと、自分の手とラムの手の指をそっと絡ませ、握った。
「ダ、ーリン…、うち、…っあ…、」
ラムが再び顔を背け、首をすぼめる。
俺は、唇よりやや冷たい耳朶を舌先でなぞり、軽く噛んだ。
そのまま舌で耳を弄ぶと、ぎゅっと閉じられた目の睫が揺れ、頬が徐々に紅潮してくるのが見て取れる。
耳から首筋へと口づけを落とし、時折きつく吸うと、白く滑らかな肌に紅い跡が残る。
それは、この女が自分のものだと証明しているように思えて何となく誇らしく感じた。


絡めていた指を解き、眼下にある柔らかそうな胸の膨らみに掌をあてた。
「や…っ!ダーリンっ、ちょっ…待っ、て…。」
ラムが何かを言っているのは分かった。
しかし、今のラムの声はさっきまでと違い、やや息が上がり、途切れ途切れに俺の耳に響いてくる。
ラムの言葉は俺を興奮させこそするが、俺はその言葉が何を意味しているのか聞き取ろうとはしなかった。
俺はまたラムに口づけて、その言葉を飲み込む。
深い口づけによって、ラムの口から意味のある言葉が消えていき、
残ったのは単語として意味を成さない音の欠片と、熱い吐息だけ。
自分の掌とラムの胸の膨らみとの間にある布が鬱陶しくて、
俺はラムのパジャマのボタンを上から順に外していった。
下着も取り外すと、ラムの豊かな形の良い胸が露になる。
胸元からその柔らかな膨らみへと唇を移動させ、舌でそっと舐めてみた。
「あ、ぁ…。」
今までに聞いたことのない声。
もっとその声が聞きたくなって、今度は親指の腹で胸の突起に触れてみた。
「あぁ…っ、ん…。」


耳の中にあるのは、淫靡な声と、急激に速まっていく心臓の音。


顔を上げてラムの表情を覗きこむ。
大きな瞳は熱を帯びた眼差しを湛えて宙を彷徨い、頬は完全に紅潮していた。
さっきまで侵入を受けていた口はけだるく開いたままで、荒い呼吸と艶めいた声を紡ぎ出している。
肌はじっとりと汗ばみ、身体全体が火照っているのが感じられた。
今、自分の目に映るラムの姿が、酷く綺麗で、知らないオンナのようで。
薄暗い月明かりの中、俺は惚けた顔で見とれた。


感覚的には何十分、現実には数秒後。


バシッッ!


俺は左頬に鈍い痛みを感じ、はっと我に返った。
まるで夢から覚めたような気分で、ゆっくりと顔の向きを正面に戻すと、
ラムが俺の下から抜け出して身体を起こし、力なく立ち上がった。
パジャマの襟をぐいっと引き寄せ、晒された胸を震える両手で覆う。
俺を見据える両の瞳から、止め処なく零れ落ちる涙。
そのきつい視線は、明らかに俺に対して嫌悪の感情を表していた。
俺は布団から身体を起こし、ただ呆然とラムを見た。


「何で…ダーリン、何で…?」
身体を震わせたまま、ラムは繰り返し問い掛ける。
俺は何も捻らず、そのとき浮かんだ答えを素直に返した。
「…可愛かったから。」
それしか浮かばなかった。
それでもラムは、表情を変えず、俺を睨んだまま。
「うちには、分からないっちゃ…。」
ラムの瞳から流れつづける涙に、胸が痛んだ。
拭いてやりたかったが、身体が動かない。
ラムの強い視線の前に、俺はどうすることもできなかった。
「…うち、下の、お母様たちの部屋で寝るっちゃ。」
そう言い残して、ラムは俺の横を逃げるように走り去り、階段を駆け下りていった。


こうして、月光の中の儀式は終りを告げた。



…退いちゃってますよね(滝汗)。
BGMは、爆風スランプ『月光』でお願いします(古ッ・汗)。

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